東京都健康安全研究センター
都内で分離されたA群溶血性レンサ球菌の薬剤感受性および血清型別について(2004〜2008年)(第31巻、2号)

都内で分離されたA群溶血性レンサ球菌の薬剤感受性および血清型別について(2004〜2008年)(第31巻、2号)

2010年2月


 

 感染症法におけるA群レンサ球菌(Streptococcus pyogenes )による疾患は、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎と劇症型溶血性レンサ球菌感染症である。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、小児における咽頭炎の代表的な疾患であり、秋から冬にかけて患者発生のピークを迎える。レンサ球菌咽頭炎は、季節性インフルエンザの増加する期間とほぼ一致し、インフルエンザに続発して起こることもある。また、レンサ球菌感染症の最も重症な病型である劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、突発的に発症して症状が急激に進行し、敗血症性ショックを起こす疾患である。40歳代以上において多く発症し、その約30%が死亡している。リスクファクターの一つとしてウイルス感染の重感染などが知られており、最近では新型インフルエンザとの合併症による死亡例も報告されている。

 S.pyogenesは、T血清型でT1型、T3型、T4型、T12型等の19種類に分類され、劇症型感染症においては、T1型とT3型が多く分離される傾向がみられている。また、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の続発症として腎炎を起こすことがあり、T12型が腎炎の起因菌となることが知られている。さらに、近年、マクロライド耐性菌の存在が問題視されており、第一選択薬の是非が患者の予後を左右することもあり、S.pyogenes における血清型別、薬剤感受性調査は非常に重要となっている。

 当センターでは、感染症発生動向調査事業で分離された菌株、感染症発生時に搬入された菌株や病原体レファレンス事業として都立病院等から送付されたS.pyogenes を対象に型別検査および薬剤感受性検査を実施している。今回は、2004〜2008年の5年間に分離されたS.pyogenes 488株の薬剤感受性検査および型別検査の結果について報告する。

 薬剤感受性は、日本化学療法学会測定標準法である微量液体希釈法による最小発育阻止濃度(MIC)で測定した。供試薬剤は、アンピシリン(ABPC)、セフジニール(CFDN)、セファレキシン(CEX)、セフジトレン(CDTR)、テトラサイクリン(TC)、クロラムフェニコール(CP)、エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、クリンダマイシン(CLDM)、リンコマイシン(LCM)の10剤である。血清型別は、A群溶血性レンサ球菌T型別用免疫血清(デンカ生研)を用いて行った。

 薬剤感受性試験の結果、β-ラクタム系薬剤であるABPC、CFDN、CEX、CDTRの4剤についてはいずれも良好な抗菌力を示した。一方、その他の6剤ではすべての薬剤に対して耐性株がみられた。

 耐性パターンをみると、TC(≧8μg/ml)の単剤耐性が42株(8.6%)、EM(≧1μg/ml)およびCAM(≧1μg/ml)の2剤耐性が99株(20.3%)、TC、EMおよびCAMの3剤耐性が40株(8.2%)、TC、EM、CAM、CLDM(≧1μg/ml) およびLCM(≧1μg/ml)の5剤耐性が22株(4.5%)、1株が6剤すべてに耐性であった

 T血清型別の結果、最も多く分離されたのはT12型の142株(29.1%)、次いでT4型が96株(19.7%)、T1型が87株(17.8%)、T28型が41株(8.4%)などの順であった(表)。

 A群溶血性レンサ球菌感染症の治療薬は、ペニシリン系またはセフェム系薬剤が第一選択薬として常用される。しかし、β- ラクタム薬剤アレルギー患者や劇症型溶血性レンサ球菌感染症患者に対しては、マクロライド系薬剤やリンコマイシン系薬剤が選択される場合がある。マクロライド系薬剤であるEMの耐性株は1995年から2003年までは9%であった。しかし、2004年から2008年で171株(35%)と増加傾向がみられており、特に2007年および2008年はそれぞれ53%および54%と半数以上が耐性を示した(図)。また、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の治療薬で、ペニシリン系薬剤と共に第一選択薬として使用される、リンコマイシン系薬剤であるCLDMの耐性は31株(6.3%)であった。それらのT型をみると、EM耐性はT4型(53株)、T12型(46株)、T1型(25株)、T28型(23株)、T25型(18株)などであり、CLDM耐性はT28型(21株)、T12型(8株)、T1型(2株)であった。なお、EM耐性のT25型は、18株中15株が、2008年に分離された株であった。

 近年増加傾向のマクロライド系薬剤に対する耐性菌やリンコマイシン系薬剤に対する耐性傾向に関して今後もそれらの動向に注意が必要である。

 

表 2004年から2008年に分離されたS.pyogenesのT型別分離状況

    

T型 1 3 4 6 11 12 25 28 B3264 その他
分離株数 87 13 96 21 6 142 27 41 24 31 488
分離率 (17.8%) (2.7%) (19.7%) (4.3%) (1.2%) (29.1%) (5.5%) (8.4%) (4.9%) (6.3%) (100%)

図 エリスロマイシン(EM)耐性株の出現状況

微生物部 病原細菌研究科 臨床細菌・動物由来感染症研究室

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