東京都健康安全研究センター
腸管出血性大腸菌感染症・食中毒の発生状況および分離菌株の疫学解析成績(平成21年)

腸管出血性大腸菌感染症・食中毒の発生状況および分離菌株の疫学解析成績(平成21年)(第31巻、5号)

 

2010年5月


 平成21年の全国における腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の届出数は3,878件で,前年の4,000件を超える届出数と比較し,やや減少した(感染症発生動向調査)。

 東京都でも,平成19年,20年と400件を超える届出数であったが,平成21年は317件と前年に比べ100件程度減少している。

 当センターでは,都内の病院および検査センターで分離され,保健所を通じて搬入されたEHECについて薬剤耐性パターンやパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)パターン等の疫学マーカーを用いた解析を行ない,その成績を食品監視課および保健所へ還元している。本稿では,平成21年に分離・搬入されたEHECの疫学解析成績について紹介する。

 当センターで分離あるいは搬入されたヒト由来EHECは303株であった。血清型はO157が260株(85.8%),O26が18株(5.9%),O145が7株(2.3%),O103が4株(1.3%),O121が3株(1.0%),O111,O128,O165が各2株(0.7%),O74,O91,O164が各1株,血清型別不能(OUT)が2株であった(表1)。

 例年,O145の分離株数はそれ程多くはないが,平成21年はO157,O26に次いで3番目に多く分離された。O145株の検出状況をみると,家族内感染が推定された事例が1事例あった以外は,全て散発事例であった。分離された時期もそれぞれ異なっているため,共通感染源等の関連性は低いと推定された。

 平成21年は全国的にO157によるDiffuse outbreakが多く発生した年であった(東京都微生物検査情報第31巻3号参照)。11月から12月にかけて東京都を中心とした6自治体において,焼肉チェーン店を原因施設として発生した食中毒事例は,患者の発生が約2ヶ月間に渡るものであった。原因となったO157の毒素型も2種類のタイプが検出され,それぞれで流行が認められた(図1)。本事例の概要および疫学解析結果について紹介する。

 流行1:11月10日から12月12日にA焼肉店で喫食した7名からO157:H7(VT2)が検出された。都内店舗利用者は4名,その他は埼玉県および横浜市の同系列の店舗利用者であった。当センターに搬入されたO157の6株についてPFGE解析を行った結果,5株はT-0943b型,1株はT-0943b-2型(T-0943b型とバンド1本が異なる)であった(写真1)。これらはバンド1本の違いのみであったため,同一クローン由来と推定され,食中毒事例として確定された。

 流行2:12月1日から28日に流行1と同系列の合計12店舗利用者12名からO157:H7(VT1+VT2)が検出された。患者は東京都,埼玉県,千葉県,さいたま市,川崎市,横浜市の6自治体にまたがっていた。このうち当センターには9店舗を利用した患者から分離された9株が搬入された。PFGE解析の結果,これらは4種類のPFGEパターン(T-0953,T-0953b,T-0954,T-0955)に分類された。原因食品を特定するために,都内店舗から収去した食品についてO157の検査を行った結果,「牛サガリ(横隔膜)」2検体からO157(VT1+VT2)が検出され,それらのPFGEパターンはT-0954,T0943cであった。同様に川崎市で検査した「牛サガリ」1検体からもO157が検出された。川崎市で分離されたO157のPFGEパターン(T-0954)は,都内店舗由来の2株中1株と一致した。更に,本パターンのO157は患者からも検出されていた。

 流行2の原因と推定された「牛サガリ」はカナダから輸入されたのち,加工施設で加工,製品化されて各店舗に配送されていたことから,加工工程の間に汚染が広がったものと推定された。また,今回の事例では,患者および食品から分離されたO157が複数のPFGEパターンを示したことから,食品は複数タイプのO157に汚染されていた可能性のあることが示唆された。

 本流行例のように,複数の自治体で患者が発生し,PFGEパターンも複数パターンが認められるような事例では,自治体間での記述疫学やPFGE解析情報の共有化が原因究明や汚染源追求のために非常に重要である。

表1. ヒト由来腸管出血性大腸菌の血清型と毒素型(平成21年*,東京都)

表1. ヒト由来腸管出血性大腸菌の血清型と毒素型(平成21年*,東京都)

血清型 菌株数(%) 毒素型
VT1 VT2 VT1+VT2
O157 260(85.8) 5 83 172
O26 18(5.9) 18    
O145 7(2.3) 6 1  
O103 4(1.3) 4    
O121 3(1.0)   3  
O111 2(0.7)   2  
O128 2(0.7)   1 1
O165 2(0.7)   2  
O74 1(0.3)     1
O91 1(0.3)     1
O164 1(0.3)     1
OUT 2(0.7) 2    
合計 303(100) 35 92 176

*平成22年1月1日〜18日に搬入された同一集団事例由来株を含む。

図1. 焼肉系列店関連O157菌株の搬入状況(平成21年12月〜平成22年1月)

写真1. 流行1由来株のPFGEパターン

写真2. 流行2由来株のPFGEパターン

微生物部 食品微生物研究科 食中毒研究室・腸内細菌研究室

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