東京都健康安全研究センター
動物における真菌保有状況

動物における真菌保有状況(第31巻、9号)

 

2010年9月(2011年8月改訂)

 


 

 東京都では、動物由来感染症の発生及びまん延の防止を目的に、動物由来感染症調査・研究事業を行っている。今回はこのうち、当センターで実施した真菌検査の成績について、その概略を紹介する。

1.クリプトコッカス

 クリプトコッカス症は、病原酵母であるCryptococcosis 属菌を原因とする動物由来感染症である。従来、主要な起因菌種とされてきたC. neoformans は、現在、2つの近縁種( C. neoformans 、C. gattii )に分けられており、血清型や遺伝子型により、さらに数種類に区別されている。このうち、C. neoformans はハトやニワトリなど、鳥類の糞に汚染された土壌が主な感染源とされている。一方、C. gattii はオーストラリアのユーカリを中心に、熱帯から亜熱帯地域の動植物、土壌等の自然界に定着していると考えられている。しかし近年、温帯地域でも検出されるようになっている。特に北米大陸では、本菌の感染症が原因と考えられる死者も確認されており、今後、注意が必要である。

 これらの現状を踏まえ、当センターでは2001年から2007年まで、都内で捕獲したカラス及び動物園やペットショップ等で飼育されていたインコ、ニワトリ、アヒル等の鳥類を対象に、Cryptococcus 属菌を中心とした病原酵母の検査を行った。その結果、鳥類の腸内容物及び糞便361検体中13検体からCryptococcus 属菌が、15検体からTrichosporon 属菌が、1検体からCandida albicans が検出された。検出されたCryptococcus 属菌はC. albisus が最も多く8株、C. neoformans が1株であった。なお、この株は塩基配列解析によりC. gattii ではないことを確認している。

2.皮膚糸状菌

 真菌による感染症のうち、感染が皮膚の表層部分や爪、毛髪などにとどまるものは表在性真菌症と呼ばれている。表在性真菌症の発症率は、皮下組織や内臓などの深部が侵される真菌症に比べはるかに高く、なかでも、いわゆる「水虫」に代表される皮膚糸状菌症の発症例が圧倒的に多い。本症は、Trichophyton 属、Microsporum 属、Epidermophyton 属の3属から構成されている皮膚糸状菌により引き起こされる。また、これらの皮膚糸状菌は、それぞれ感染源や宿主親和性に基づき、動物好性菌、ヒト好性菌、土壌好性菌に分けられる。動物好性菌のヒトへの感染は、直接、あるいは間接的に動物と接することにより発生し、都市部では、M. canis がペット動物からヒトへ感染した事例が多く報告されている。

 そこで2009年、都内でネコを集団飼養している動物取扱業16施設を対象に、飼育されていたネコの皮膚糸状菌を調査した。その結果、ネコの被毛135検体中28検体からMicrosporum 属菌が、1検体からTrichophyton 属菌が検出された。また、皮膚糸状菌は調査施設の約3割(5施設)から検出された。各施設から分離された株について遺伝子解析を行った結果、それらの塩基配列はそれぞれの施設内で一致していた。この結果から、集団飼育により施設内全体に皮膚糸状菌が伝播していったことが推察される。

3.Malassezia 属菌

 表在性真菌症のうち、でん風に代表される皮膚マラセチア症は、皮膚糸状菌症、皮膚カンジダ症に次いで発症例が多いとされている。本症の起因菌であるMalassezia 属菌は、ヒトや動物の皮膚に常在する酵母であり、特定の条件下で過度に菌数が増加した場合に、皮膚等へ危害を起こすと考えられている。また近年では、本菌のヒトや動物のアトピー性皮膚炎への関与や、ペット動物等を介した院内感染事例などが報告され、動物由来感染症の起因菌としても注目されはじめている。

 そこで2006年から2009年まで、動物愛護相談センターで収容した動物(イヌ及びネコ)を対象に、Malassezia 属菌の検査を行った。この結果、イヌの外耳ふき取り182検体中109検体、ネコの外耳ふき取り110検体中19検体からMalassezia 属菌が検出された。また、これらの動物からはヒトの常在菌と考えられている菌種も検出され、ヒトと動物との間で本菌の交差汚染が進行していることが推察された。

 わが国で発生する真菌症の感染源が動物である場合も多く、野生動物のペット化や保菌動物の輸出入による流行地域の拡大、コンパニオンアニマルに代表されるヒトと動物の濃厚接触などにより、新たな真菌症の発生が危惧されている。したがって、ヒトと動物の間での真菌症の相互感染拡大を防止するためには、動物との接触前後における手洗い励行の徹底を普及啓発していくとともに、今後も動物における病原真菌の保有動向を監視していくことが重要であろう。

 なお、これらの結果は健康安全部環境衛生課動物管理係及び動物愛護相談センターとの共同調査で行われたものである。

表1. 都内で捕獲・飼育された鳥類からの病原酵母の検出状況

  検体数 検出数 検出率 由来
合計 361 29 8.0%  
Cryptococcus 属菌
 C. neoformans 1 0.3% インコ
 C. albisus 8 2.2% カラス、インコ等
 C. laurentii 3 0.8% インコ
 C. humicola 1 0.3% インコ
 Trichosporon 属菌
 T. asahi 7 1.9% インコ、ニワトリ等
 T. ovoides 7 1.9% カラス、インコ等
 T. cutaneum 1 0.3% ニワトリ
その他の病原性酵母
 Candida albicans 1 0.3% カラス
表2. 都内動物取扱業における皮膚糸状菌検出状況

  検査数 検出数 検出率
調査施設 16 5 31.3%
皮膚糸状菌 135 29 21.5%
 Microsporum 属菌   28 20.7%
 Trichophyton 属菌   1 0.7%

表3. 動物愛護相談センターで収容したイヌ及びネコにおけるMalassezia 属菌の検出状況

  イヌ(2006-2009年) ネコ(2007-2009年)
検体数 検出数 検出率 検体数 検出数 検出率
Malassezia 属菌 182 109 59.9% 110 19 17.3%
 動物常在菌種   100 54.9%   16 14.5%
 ヒト常在菌種   9 4.9%   3 2.7%

微生物部 食品微生物研究科 真菌研究室

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