コレラの発生状況(2009年)(第31巻10号)
2010年10月
コレラは感染症法の改正(2007年4月施行)で、2類感染症から3類感染症に変更された。患者及び無症状保菌者が届出対象(擬似症患者は対象外)である。なお、起因菌は、コレラ毒素産生性のO1血清型及びO139血清型コレラ菌と定義されている。
国立感染症研究所感染症情報センターから報告された2009年の我が国におけるコレラ報告数は、16例(全例患者)で、推定感染地域は、全例が海外であった(表1)。死亡例の報告は無かった。
海外を推定感染地とする輸入16例は、男性13例、女性3例で、年齢群別では、10代1例、20代3例、30代1例、40代1例、50代3例、60代6例、70代1例であった。推定感染国はインド9例、フィリピン5例、インドネシア1例、インドネシア/マレーシア/ブルネイ1例であった。分離コレラ菌の血清型は、全てO1小川型である。また、生物型は、エルトール型9例、検査未実施または不明が7例であった。
世界の発生状況
WHOの報告「WHO Weekly Epidemiological Record,85(31),2010」に基づき2009年における世界のコレラ発生状況を紹介する。世界全体としては、1961年にインドネシアに始まったエルトールコレラ菌によるコレラの発生が依然続いている。表2に示したようにWHOに発生を報告した国は前年より11か国少ない45か国、患者数は221,226名で、うち死者数は4,946名であった。前年に比べ患者数は16%増加、死者数は3.8%減少した。致死率(報告患者数に対する割合)は前年の2.70%から2.24%に下降した。
アフリカ大陸では、30か国から前年より21%多い患者数217,333名が報告され、これは世界全体の98%を占める。死者数は4,883名、致死率は2.25%であった。ジンバブエ、エチオペア、コンゴ民主共和国、モザンビーク、ナイジェリア、スーダン、ケニヤ、南アフリカからの報告は一万人を超え、この8か国でアフリカ大陸全体の88%を占めた。
北アメリカでの報告は、米国(輸入8例を含む10例)及びカナダ(輸入2例)からの計12名であった。南米からの報告はパラグアイ(5例)だけであった。中米及びカリブ海諸国からの報告は無かった。
アジアにおける報告患者数は、前年より激減し1,902名で、死者数は18名、致死率は0.95%であった。9か国から報告されており、多いのはアフガニスタン(662名)、べトナム(471名)、タイ(315名)、マレーシア(187名)であった。
ヨーロッパでは、英国(16名)とフランス(1名)から報告されており、いずれも輸入例であった。
前年は報告の無かったオセアニアでは、パプアニューギニアから死者45名を含む1,957名が報告された。7月に始まった集団発生によるものであった。
O139コレラ菌による発生は、中国と米国に認められた。中国では検査室で血清型別試験が実施された76例中37例、米国では10例中1例が血清型O139であったと報告された。なお、今までのところアフリカ大陸では確認されていない。WHOでは、O139コレラ菌は次期パンデミックの原因となる恐れがあるため、コレラ菌検査の際は、O1及びO139両血清型を対象とした試験を実施するよう奨励している。
WHOでは、世界で発生した55事例の急性下痢症集団発生の確認作業に関与、そのうち29か国の47集団事例はコレラと確認された。これらのうち、38集団事例はアフリカ大陸、9集団事例はアジアでの発生であった。
コレラは多くの国で拡散防止の努力が払われてきているが、熱帯・亜熱帯地域の開発途上国などにとっては、今もって大きな脅威である。環境管理の改善、適切な経口ワクチンの使用など、効果的な公衆衛生上の介入策を実行に移すことが重要である。
ここに述べたWHOからの公式報告数は、世界的なコレラの発生状況をよく示していると思われる。しかし、国あるいは地域によっては、未あるいは不十分な報告、また用いられているサーベイランスシステムの限界などもあって、実際の発生数を必ずしも反映したものではない。
表1 我が国におけるコレラ発生状況
年次 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
輸入事例数 | 45( 6) | 38( 9) | 29( 7) | 20( 5) | 74(10) | 44(11) | 37( 8) | 9( 2) | 22( 3) | 16( 3) |
国内事例数 | 12( 1) | 12( 4) | 20( 7) | 3( 0) | 11( 2) | 11( 2) | 8( 0) | 4( 1) | 23( 3) | 0 |
合計 | *58( 7) | 50(13) | *51(14) | *24( 5) | *86(12) | *56(13) | 45( 8) | 13( 3) | 45( 6) | 16( 3) |
( ):東京都分再掲 *感染地不明を含む
表2 世界のコレラの発生状況(WHO報告より)
年次 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
報告国数 | 56 | 57 | 52 | 45 | 56 | 51 | 52 | 53 | 56 | 45 |
患者数 | 137,071 | 184,311 | 142,311 | 111,575 | 101,383 | 131,943 | 236,896 | 177,963 | 190,130 | 221,226 |
死者数 | 4,908 | 2,728 | 4,564 | 1,894 | 2,345 | 2,272 | 6,311 | 4,031 | 5,143 | 4,946 |
致死率(%) | 3.58 | 1.48 | 3.21 | 1.70 | 2.31 | 1.72 | 2.67 | 2.27 | 2.70 | 2.24 |