東京都健康安全研究センター
平成22年の食中毒発生状況

平成22年の食中毒発生状況(第32巻、4号)

2011年4月

 


 

 平成22年に全国および東京都内で発生した食中毒事例の概要と特徴について、厚生労働省医薬食品局食品安全部並びに東京都福祉保健局健康安全部の資料に基づいて紹介する。

1.全国における発生状況

 食中毒事例総数は1,254件、患者数は25,972名(死亡者0名)であり、事例数は前年比1.20で約200件増加し、患者数は前年比1.28で約6,000人増加した。
 事例数を原因物質別に見ると、細菌性食中毒は580件(46.3%)、前年比1.08でほぼ横ばいであった。原因菌別の第1位はカンピロバクター361件(28.8%)で、他の菌に比べて著しく多く、以下、サルモネラ73件(5.8%)、腸炎ビブリオ36件(2.9%)、黄色ブドウ球菌33件(2.6%)、腸管出血性大腸菌27件(2.2%)、ウエルシュ菌24件(1.9%)、セレウス菌15件(1.2%)、腸管出血性大腸菌以外の大腸菌8件(0.6%)、そしてボツリヌス菌、赤痢菌およびその他の細菌がそれぞれ1件(0.1%)であった。近年減少傾向であった腸炎ビブリオは、前年の2.6倍の36件に増加した。
 細菌性食中毒の患者数は8,719名(33.6%)、前年比1.30に増加した。患者数の多い原因菌はサルモネラ2,476名、カンピロバクター2,092名、ウエルシュ菌1,151名、腸管出血性大腸菌以外の大腸菌1,048名であった。1事例あたり患者数500名以上の細菌性食中毒は2事例で、サルモネラ事例(患者数654名)および組織侵入性大腸菌による事例(患者数503名)であった。これらはいずれも仕出し弁当が原因と推定された。ボツリヌス菌による1事例は、原因食品不明の乳児ボツリヌス症(毒素型B型)であった。その他の細菌による1事例は、A群溶血性レンサ球菌による事例(患者数21名)で福祉施設の給食が原因と推定された。
 一方、ノロウイルスによる食中毒は事例数399件(31.8%)、患者数は食中毒患者全体の53.5%を占める13,904名であった。前年比は事例数で1.39、患者数で1.28と増加した。化学物質による食中毒は9件、植物性自然毒は105件、動物性自然毒は34件であった。植物性自然毒による事例は前年に比べてほぼ倍増したが、105件中その82%にあたる86件はキノコ類を原因食品とするものであった。原因物質不明事例は95事例(7.6%)であった。この中には、10月に発生したヒラメが原因とされた大規模食中毒(患者数113名)が含まれる。

2.東京都における発生状況

 都内の食中毒発生状況は、事例数143件(患者数2,006名)であり、平成21年の事件数126件(患者数1,847名)と比べ、事例数で1.13倍、患者数で1.09倍と共にやや増加した。これはノロウイルス事例の増加が主な原因であった。
 食中毒事例143件中、細菌性によるものは61件(42.7%)であった。原因菌ではカンピロバクターが突出して多く37件(25.9%)、次いで、サルモネラ8件(5.6%)、腸管出血性大腸菌5件(3.5%)、ウエルシュ菌4件(2.8%)、腸炎ビブリオ4件(2.8%)、黄色ブドウ球菌3件(2.1%)等であった。患者数100名以上の事例はウエルシュ菌の1事例(患者148名)で、加熱後放冷不足等による調理食品を使用した仕出し弁当が原因であった。カンピロバクター食中毒は、生あるいは加熱不十分の鶏肉および牛の生レバーを原因として発生することが多いが、「羊レバ刺し」を喫食したことによるめずらしい事例もあった。また、学校の食育授業で喫食した「かつおの刺身」を原因食品とした1事例が報告された。本事例では、保存してあった「かつおの刺身」からカンピロバクターが検出された。汚染の原因としては、鶏をさばいた後に、かつおをさばいて刺身を作ったことで、鶏に付着していたカンピロバクターが調理従事者の手指及び器具を介して「かつおの刺身」を二次汚染したと考えられた。8月に発生したセレウス菌による食中毒では、原因食品「みたらし団子」からセレウス菌(107個/g)とセレウリド(セレウス菌嘔吐毒素)が検出された。「みたらし団子」は他県で製造され冷蔵品で仕入れた後、販売店で加熱後、しょうゆダレをつけて提供されていた。検出されたセレウリドは74-150 ng/gで、団子1個(約10g)を喫食すれば発症することが推定された。
 ノロウイルスによる食中毒は、事例数68件(47.6%)、患者数1,208名(60.2%)であり、患者数は食中毒全体の6割を超えていた。前年比はそれぞれ1.74および1.22で患者数は約200名増加した。患者数が100名以上の事例は1件(患者136名)で、幼稚園の餅つき会で作った餅を原因とした事例であった。事例数68件の内、45事例(64.3%)は調理従業員等を介しての汚染、25事例(35.7%)はカキ等の2枚貝が原因と推定された(2事例は調理従事者およびカキによる汚染の両方が原因と推定されたため重掲)。
 化学物質による食中毒2件はいずれもヒスタミンによるもので、サバおよびカジキマグロが原因食品であった。植物性自然毒は1件のみで茹でジャガイモのソラニンによるものであった。その他6件はシメサバや生のカツオ、サンマ等を原因食品としたアニサキス(寄生虫)によるものであった。アニサキスによる事例は毎年1~2例程度の発生であるが、平成22年は特に多く確認された。
 原因物質不明事例は5件で生鮮魚介類や馬刺しなどを喫食していた。
 近年、ヒラメや馬刺しなどの生食用生鮮食品を喫食後、数時間で軽い下痢や嘔吐を呈する事例が多数報告され問題となっている。平成23年4月、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会において、これらの不明下痢症の原因として、ヒラメではクドア・セプテンクタータ、馬肉ではザルコシスティス・フェアリーという寄生虫の関与が強く示唆されることが報告された。同年6月、厚生労働省は、これらの寄生虫によると考えられる有症事例は食中毒として取り扱うよう都道府県等に通知した。現在、これらの寄生虫を対象とした検査は当センター病原細菌研究科寄生虫研究室において実施している。

 

平成22年の食中毒発生状況

原因物質 全国 東京都
事件数(%) 患者数(%) 事件数(%) 患者数(%)
サルモネラ 73(5.8) 2,476(9.5) 81)(5.6) 1131)(5.6)
黄色ブドウ球菌 33(2.6) 836(3.2) 3(2.1) 32(1.6)
腸炎ビブリオ 36(2.9) 579(2.2) 42)(2.8) 292)(1.4)
腸管出血性大腸菌 27(2.2) 358(1.4) 5(3.5) 10(0.5)
その他の病原大腸菌 8(0.6) 1,048(4.0) - -
ウエルシュ菌 24(1.9) 1,151(4.4) 4(2.8) 202(10.1)
セレウス菌 15(1.2) 155(0.6) 1(0.7) 5(0.2)
カンピロバクター 361(28.8) 2,092(8.1) 371)(25.9) 2891)(14.4)
赤痢菌 1(0.1) 2(0) - -
ボツリヌス菌 13)(0.1) 1(0) - -
その他の細菌 1(0.1) 21(0.1) 12)(0.7) 302)(1.5)
細菌性総数 580(46.3) 8,719(33.6) 61(42.7) 717(35.7)
ノロウイルス 399(31.8) 13,904(53.5) 68(47.6) 1,208(60.2)
その他のウイルス 4(0.3) 796(3.1) - -
化学物質 9(0.7) 55(0.2) 2(1.4) 15(0.7)
植物性自然毒 105(8.4) 337(1.3) 1(0.7) 9(0.4)
動物性自然毒 34(2.7) 53(0.2) - -
その他 28(2.2) 29(0.1) 6(4.2) 7(0.3)
原因物質不明 95(7.6) 2,079(8.0) 5(3.5) 50(2.5)
合計 1,254(100.0) 25,972(100.0) 143(100.0) 2,006(100.0)

 

1) 1事件(患者数7名)はサルモネラ及びカンピロバクターとの混合感染(重掲)
2)1事件(患者数30名)は腸炎ビブリオとビブリオ・フルビアリスとの混合感染(重掲)
3) 感染症法による届出は平成23年1月

食品微生物研究科 食中毒研究室

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