東京都健康安全研究センター
腸管出血性大腸菌感染症・食中毒の発生状況および分離菌株の疫学解析成績(平成22年)

腸管出血性大腸菌感染症・食中毒の発生状況および分離菌株の疫学解析成績(平成22年)(第32巻、6号)

2011年6月


 

 平成22年の東京都における腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の届出数は339件であり,例年とほぼ同様の発生数であった(東京都感染症発生動向調査事業報告)。

 当センターでは,東京都保菌者検索事業に基づき,東京都内の病院,検査センターおよび保健所等で分離され,保健所を通じて搬入されたEHECについて薬剤耐性パターンやパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)パターン等の疫学マーカーを用いた解析を行い,その成績を食品監視課および保健所へ還元している。

 平成22年に当センターで分離,あるいは搬入されたヒト由来EHECは324株であった。血清型はO157が最も多く262株(80.9%),次いでO26が23株(7.1%),O103が14株(4.3%),O91およびO165が各5株(1.5%),O121が4株(1.2%),O111およびO146が各3株(0.9%),O145が2株(0.6%),O128が1株(0.3%),血清型別不能(OUT)が2株(0.6%)であった(表1)。

 血清型O103の14株中7株は林間学校へ行った小学生グループから分離されたものであった。この事例では多くの患者からカンピロバクターも検出された。分離されたO103のPFGEパターン等が一致したことから,同一の感染源が疑われた。しかし,林間学校施設等を調査した結果,原因菌は検出されなかったことから感染源は不明となった。

 平成22年にEHECによる食中毒として報告された事例は5事例であった。そのうち2事例は平成21年12月〜平成22年1月に首都圏を中心に発生した散在的集団発生(diffuse outbreak)関連である(詳細は第31巻第5号参照)。今回は,それら以外の8月に発生した2事例について紹介する。

 事例1. 焼肉店で発生した食中毒事例
  事例1-1:8月6日に5名のグループがユッケ,レバ刺し等を喫食したところ,3名が下痢等の症状を呈した。患者糞便から病原菌は検出されなかったが,調査のため焼肉店から収去された食品を検査した結果,11日収去のレバ刺しからO157(VT1+VT2)が検出された。

  事例1-2:8月12日に同店を利用した5名中1名が16日から下痢等を発症し,O157(VT1+VT2)を検出したとの届出があった。この患者由来株(事例1-2)および前の事例1-1の調査で検出されたレバ刺し由来株について疫学マーカー解析を行った結果,PFGEパターンおよび薬剤耐性パターンが一致した。このレバ刺しは事例1-2のグループが喫食した前日に収去されたものであり,事例1-2の患者もレバ刺しを喫食していたことから,事例1-2を食中毒と断定できた。きめ細かい調査と検査が功を奏した事例である。しかし事例1-1については,患者から病原菌が検出されず,また同日利用者に発症者がいなかったことから有症苦情扱いとなった。

 事例2. 老人施設で発生した食中毒事例
  8月14日,医療機関に併設されている老人施設の入所者からO157(VT1)が検出されたという届出があった。調査の結果,患者は8日から血便を呈しており,他にも複数名が血便を呈していることが判明した。患者の検便を実施した結果,患者2名からO157(VT1+VT2)が検出された。調理従事者に発症者は認められなかったが,自主検便の結果,2名(栄養士および調理従事者)からO157が検出された。老人施設の食事は,医療機関の給食も合わせて約600食提供されていたが,患者は老人施設のみであった。原因食品および感染源調査のため,当センターでは7月31日〜8月6日までに提供された食事(検食34検体)の検査を実施した。その結果,7月31日の昼食に提供された「スイートサラダ」からO157(VT1+VT2)が検出された。食事の提供数に比べ,患者数が3名と非常に少ないことから,施設で提供された食事を原因とした食中毒であるとは直ちに断定することはできず,分離株についてPFGE解析を実施した。それぞれの菌株は,バンドが数本異なるパターンも認められたが,患者1名と栄養士,そして検食のスイートサラダ由来株が同じパターンを示したことから,本事例は老人施設で提供された食事(スイートサラダ)を原因とした食中毒であると断定された(写真1,表2)。O157が検出された「スイートサラダ」は,キュウリ,たまねぎ,レーズン,冷凍サツマイモをマヨネーズで和えたものであったが,調理過程のどこでO157に汚染されたかは不明であった。また検食からO157が検出されたにもかかわらず,患者数が少なかったことから,O157汚染菌数が少なく,また汚染の偏りがあった可能性も示唆された。

 今回紹介した事例は,共に原因食品から,患者由来株と同じPFGEパターンを示すO157が検出された事例であった。特に事例2のように,生肉(内臓肉)以外の食品からEHECが検出された事例は,非常に稀である。

表1. ヒト由来腸管出血性大腸菌の血清型と毒素型(平成22年,東京都)

血清型 菌株数(%) 毒素型
VT1 VT2 VT1+VT2
O157 262(80.9) 1 87 174
O26 23(7.1) 20   3
O103 14(4.3) 14    
O91 5(1.5) 5    
O165 5(1.5)   4 1
O121 4(1.2)   4  
O111 3(0.9) 3    
O146 3(0.9)   2 1
O145 2(0.6)   2  
O128 1(0.3)     1
OUT 2(0.6)   2  
合計 324(100) 43 101 180

 

表2 老人施設で発生したO157食中毒事例由来株のPFGEパターン

レーンNo 由来 毒素型 PFGEパターン
1 患者A VT1 T-1017c
2 患者B VT1+VT2 T-1017c-2
3 患者C VT1+VT2 T-1017c
4 栄養士 VT1+VT2 T-1017c
5 検食(スイートサラダ) VT1+VT2 T-1017c-3
6 検食(スイートサラダ) VT1+VT2 T-1017c
  調理従事者 VT1+VT2 T-1017c-2

写真1 老人施設で発生したO157食中毒事例由来株の

PFGEパターン(2010年8月)

食品微生物研究科 食中毒研究室・腸内細菌研究室

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