東京都健康安全研究センター
東京都において分離された赤痢菌の菌種、血清型および薬剤感受性について(2011年)

 2011年に東京都健康安全研究センター並びに都・区検査機関、都内の病院、登録衛生検査所等で分離された赤痢菌を対象に、菌種、血清型および薬剤感受性についてまとめたので、その概略を紹介する。

 供試菌株は、都内の患者とその関係者および保菌者検索事業によって分離された赤痢菌67株(海外旅行者由来30株、国内事例由来37株)である。

 血清型別は、常法により行った。薬剤感受性試験は、米国臨床検査標準化協会(CLSI:Clinical and Laboratory Standards Institute, 旧NCCLS)の抗菌薬ディスク感受性試験実施基準に基づき、市販の感受性試験用ディスク(センシディスク;BD)を用いて行った。供試薬剤は、クロラムフェニコール(CP)、テトラサイクリン(TC)、ストレプトマイシン(SM)、カナマイシン(KM)、アンピシリン(ABPC)、スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤(ST)、ナリジクス酸(NA)、ホスホマイシン(FOM)、ノルフロキサシン(NFLX)およびセフォタキシム(CTX)の10剤である。

 NA耐性株についてはEtest(シスメックス・ビオメリュー)を用いてシプロフロキサシン(CPFX)、レボフロキサシン(LVFX)、オフロキサシン(OFLX)、NFLXの4種類のフルオロキノロン系薬剤に対する最小発育阻止濃度(MIC:μg/ml)を測定した。

 赤痢菌67株の菌種別内訳は、表に示したように、ディセンテリー菌1株(海外)、フレキシネル菌12株(海外4、国内8)、ボイド菌5株(海外4、国内1)、ソンネ菌49株(海外21、国内28)であった。いずれかの薬剤に耐性を示したものは64株(95.5%)で、その薬剤別耐性頻度は、TC(76.1%)、SM(74.6%)、ST(50.7%)、NA(26.9%)、ABPC(22.4%)、NFLX(13.4%)、CP(3.0%)の順であった。KM、FOM、CTXに耐性を示す株は認められなかった。

 耐性株64株の薬剤耐性パターンは18種に分かれた。フレキシネル菌は「CP・TC・SM・ABPC・ST」:2株、「TC・SM・ABPC・ST」:2株、「TC・ABPC」:2株、「SM・ABPC・NA」:1株、「TC・ST」:1株、および「TC単剤」:1株であった。ソンネ菌49株では「TC・SM」:21株が最も多く、その他「TC・SM・ST」:7株、「TC・SM・ST・NA・NFLX」:5株、「TC・SM・ST・NA」:5株が主要なものであった。ディセンテリー菌1株は「TC・SM・ST」に耐性であった。ボイド菌5株は「SM・ABPC・ST」:2株、「TC・SM・ST・NA・NFLX」:1株、「SM・ST」:1株、「NA単剤」:1株であった。

 ソンネ菌49株のうち「TC・SM」の耐性パターンが21株(42.9%)認められた。この耐性パターンは、過去5年間の調査(2006~2010年)では161株中わずか2株でしか認められておらず、今回この2剤耐性菌が急増したことについて何らかの共通の感染源の存在が推測された。この21株は全て国内由来株で、患者の性別は全て男性(26~71歳)であった。また、国立感染症研究所においてMLVA(Multilocus Variable Number Tandem Repeat Analysis)により分子疫学的に解析した結果、これら21株のソンネ菌は、同一または類似していることが示された。これらのことから、関連性のある広域散発事例と推定されたが、共通の喫食歴等は不明であった。

 NA耐性を示した18株(海外13、国内5)について、フルオロキノロン系薬剤に対するMICを測定した結果、9株は耐性(CPFX:4~16μg/ml、LVFX:4~16μg/ml、OFLX:8~>32μg/ml、NFLX:16~32μg/ml)を示し、残る9株は低感受性であった。耐性9株は、ボイド19型(1株)およびソンネ(8株)であった。このボイド菌株はインドからの帰国者から検出された。また、ソンネ8株は海外由来7株(インド3、ネパール3、バングラデシュ1、)および国内事例由来1株であった。

 近年わが国で発生している細菌性赤痢は半数以上が海外感染事例である。しかし、2011年は某外食チェーン店によるソンネ菌の食中毒事例や、上述のソンネ菌(TC・SM耐性株)による広域散発事例により、国内事例が海外事例を上回った。国内事例の感染経路は、国外感染者との接触や輸入食品の摂取等が推測されるものの、感染源が特定される例は少なく、特に広域散発例は探知が難しい。感染経路の解明には、迅速な患者情報(性別、年齢、喫食歴、海外渡航歴等)と共に、菌株情報(血清型、薬剤耐性パターン、遺伝子解析結果等)が重要である。今後も赤痢菌の菌種、血清型および薬剤耐性の動向を注意深く監視する必要がある。

(微生物部 食品微生物研究科 腸内細菌研究室)

 

表.赤痢菌の薬剤耐性菌出現頻度 (2011年:東京)

 

菌種 供試株数 耐性株数(%)*
ディセンテリー 1 1 (100)
フレキシネル 12 9 (75.0)
ボイド 5 5 (100)
ソンネ 49 49 (100)
67 64 (95.5)

 

*供試薬剤(10種類)の内、1薬剤以上に耐性を示した菌株

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