都内での発生が疑われる食中毒(有症苦情を含む)関連調査や、学校など施設内における集団胃腸炎調査として、2011/2012年シーズン(2011年9月~2012年8月)には446事例の胃腸炎起因ウイルス検査依頼があった。ウイルス研究科ではノロウイルス(Norovirus:NoV)、サポウイルス(Sapovirus:SaV)、ロタウイルス(Rotavirus:RV)、アストロウイルス(Astrovirus:AstV)及びアデノウイルス(Adenovirus:AdV)を対象にreal-time PCR法を用いた検索を実施した。
供試検体数は、糞便・吐物4,223検体(胃腸炎発症者2,245検体、非発症者279検体、調理従事者等1,699検体)、食品620検体、拭き取り299検体であった。検査依頼があった446事例のうち発症者糞便の検査を行ったのは422事例であり、224事例(53.1%)、1,262検体(56.2%)の発症者糞便から胃腸炎起因ウイルスが検出された。これら224事例中、101事例について調理従事者等の糞便検査を実施したところ、本シーズンにおいても約半数にあたる52事例(51.5%)の調理従事者等から発症者と同じウイルスが検出された。この結果から、ウイルスによる食中毒事例の多くは調理従事者等を介して発生する状況は続いており一層の衛生管理・指導が必要と考えられた。
検出されたウイルスの内訳は、NoVが213事例(95.1%)、RV が6事例(2.7%)、SaVが5事例(2.2%)でありAstV やAdVは検出されなかった。遺伝子群別に見たNoVの検出数では、GIが25事例(11.7%)、GIIが165事例(77.5%)、GI、GIIともに検出された事例が23事例(10.8%)であった。GI、GIIの両遺伝子群が検出される事例ではカキなど二枚貝の喫食が疑われる場合が多いが、本シーズン中には二枚貝との関連が考え難い事例も数事例見られた。なお、58事例について実施した遺伝子解析(遺伝子型別)では、GII/4が27事例(46.6%)、GI/8とGII/13がそれぞれ7事例(12.1%)、GII/6とGII/12が各3事例(5.2%)、GII/2、GII/3、GII/5、GI/4、GI/14が各2事例(3.4%)、GI/7が1事例確認された。また、RV が検出された6事例はいずれもワクチン接種が開始された2011年の秋以降に発生した事例であるため、検出されたウイルスの遺伝子解析を行ったがワクチンとの関連は見出せなかった。
施設別では、飲食店での食事が原因と考えられるものが84事例(37.5%)、幼稚園や保育園、小学校での発生が68事例(30.4%)、高齢者施設が27事例(12.1%)、その他の施設等が45事例(20.1%)であり、ホテルや結婚式場など大規模施設での発生は少なかった。
発症者糞便からウイルスが検出された224事例のうち、食品検査を実施したのは69事例、366検体であり、12事例(17.4%)、13検体(3.6%)からNoVが検出された。NoV陽性となった食品は11検体がカキであり、カキ以外で陽性となった食品は、高齢者施設内で提供されたオムレツ(検食)と飲食店で使用されたカット野菜(参考品)の2検体であった。遺伝子解析の結果、それら2検体から検出されたNoVは、それぞれの事例の発症者糞便から検出されたNoVと同じ遺伝子型であり、食品を介して発生した食中毒事例であると推察された。また、本シーズン中に行った食品検査のうち44検体がカキを含む二枚貝であったが、12検体(27.3%)がNoV陽性となった。この結果は、NoVを蓄積した二枚貝は依然として広く市場に流通しており、NoVによる食中毒発生の要因となっていることを示唆するものと考えられる。
ウイルスが原因とされた事例の拭き取り検査は37事例、231検体について実施し、10事例(27.0%)、13検体(5.6%)からNoVを検出した。陽性となった検体は、いずれもドアノブや便座などトイレ周辺の拭き取りを行ったものであるが、9月に発生した事例では社内空調設備の吸排気口や玄関マットなどを拭き取った14検体中7検体からNoVが検出された。同事例では、調理従事者や発症者糞便からも同じ遺伝子型のNoVが検出されたが、施設内環境の汚染が実証されたことにより食中毒とは断定されない非常に注目すべき事例となった。このような事例の存在が明らかとなったことにより、様々な要因を常に考慮しつつ食中毒、感染症の調査を実施することの重要性が再確認された。
微生物部 ウイルス研究科
腸管ウイルス研究室