2011年に東京都健康安全研究センター並びに都・区検査機関、都内の病院、登録衛生検査所等で分離されたサルモネラを対象に、血清型および薬剤感受性についてまとめたので、その概略を紹介する。チフス菌およびパラチフスA菌については、国立感染症研究所(感染研)に依頼したファージ型別の成績も併せて紹介する。
供試菌株は、都内の患者とその関係者および保菌者検索事業によって分離されたサルモネラ167株(海外由来10株、国内由来157株)である。血清型別、薬剤感受性試験は「東京都において分離された赤痢菌の菌種、血清型及び薬剤感受性について(2011年)」(33巻7号)に記載した方法と同様に行った。
チフス菌およびパラチフスA菌の薬剤耐性菌出現頻度および薬剤耐性パターンを表1に示した。チフス菌4株のうち、インド亜大陸からの帰国者から分離された2株は共にNA単剤耐性であった。国内由来株2株は供試薬剤全てに感受性であった。この2件の国内例は、母である無症状病原体保有者から子への家庭内感染が疑われた事例であった。この母親からは2009年にも夫への家庭内感染がきっかけで無症状病原体保有者としてチフス菌が検出されており、抗菌剤投与後に陰性化確認が行われていたのにもかかわらず、再度2年半後に排菌が確認された。チフス菌は症状消失後、胆嚢に長期間保有されて間欠的に排菌されることがある。チフス菌4株のファージ型は、B1型:2株、UVS(Untypeable Vi strain)1型:1株、UVS4型:1株であった。
パラチフスA菌8株は全てNA単剤に耐性を示した。8株は全て海外由来で、推定感染地域はインド亜大陸7株、インド亜大陸・東南アジア1株であった。パラチフスA菌8株のファージ型は、2型:2株、4型:1株、5型:3株、7型:1株、UT(Untypeable):1株であった。
NA耐性を示したチフス菌およびパラチフスA菌10株について、フルオロキノロン系薬剤に対するMICを測定した結果、全ての株が中間(低感受性)を示した(CPFX:0.25-0.50μg/ml、LVFX:0.25-1.0μg/ml、OFLX:0.50-2.0μg/ml、NFLX:2.0-3.0μg/ml)。
チフス菌・パラチフスA菌以外のサルモネラ155株(全て国内由来株)の血清型および耐性菌の出現頻度を表2に示した。主なO群は、O7群49株(31.6%)、O4群45株(29.0%)、O8群26株(16.8%)、O9群25株(16.1%)で、これらで全体の93.5%を占めた。主な血清型は、S. Enteritidis(O9群,25株)、S. Thompson(O7群,13株)、S. Infantis(O7群,12株)、S. Saintpaul(O4群,10株) 、S. Montevideo(O7群,10株)であった。
サルモネラ155株中51株(32.9%)が薬剤耐性株で、前年(34.4%)と同程度の耐性頻度であった。各薬剤に対する耐性頻度は、SM(22.6%)、TC(20.6%)、NA(13.5%)、ABPC(4.5%)、KM(3.9%)、ST (3.2%)、CP (1.9%)の順であった。なお、FOM、NFLXおよびCTXに対する耐性株は認められなかった。薬剤耐性パターンは16種類で、「TC・SM」(9株)、「TC・SM・NA」(8株)、NA単剤(8株)、およびSM単剤(7株)が主要なものであった。O群別の耐性頻度では、O9群(72.0%)、O8群(42.3%)が高かった。最も多く検出された血清型であるS. Enteritidisの耐性頻度は72.0%で、NA単剤耐性(8株)およびSM単剤耐性(6株)が主要なものであった。NA耐性を示した21株について、フルオロキノロン系薬剤に対するMICを測定した結果、全ての株が低感受性を示した(CPFX:0.125-0.50μg/ml、LVFX:0.25-1.0μg/ml、OFLX:0.50-2.0μg/ml、NFLX:0.50-2.0μg/ml)。今後もこれら耐性菌は、ますます増加する事が予想される。引き続き、その動向を注意深く監視する必要がある。
表1.チフス菌およびパラチフスA菌の薬剤耐性パターン(2011年:東京)
チフス菌 | パラチフスA菌 | 計 | |||
由 来 | 海外 | 国内 | 海外 | 国内 | |
供試株数 | 2 | 2 | 8 | 0 | 12 |
耐性株数 | 2 | 0 | 8 | 0 | 10 |
(%) | (100) | (0) | (100) | (83.3) | |
耐性パターン | |||||
NA | 2 | 8 | 10 | ||
全て感受性 | 2 | 2 |
供試薬剤:CP, TC, SM, KM, ABPC, ST, NA, FOM, NFLX, CTX
表2.サルモネラ(チフス菌、パラチフスA菌を除く)の
血清型と薬剤耐性菌出現頻度 (2011年:東京)
O群 | 血清型 | 供試株数(%) | 耐性株数(%)* |
O4 | Agona | 5 | 3 (60.0) |
Derby | 6 |
3 (50.0)
|
|
Saintpaul | 10 | 0 | |
Schwarzengrund | 6 | 3 (50.0) | |
Stanley | 3 | 1 (33.3) | |
Typhimurium | 4 | 1 (25.0) | |
O4:a:- | 7 | 0 | |
O4:b:- | 2 | 0 | |
O4:eh:- | 1 | 0 | |
O4:i:- | 1 | 1 (100) | |
小計 | 45 (29.0) | 12 (26.7) | |
O7 | Bareilly | 3 | 0 |
Braenderup | 1 | 0 | |
Infantis | 12 | 7 (58.3) | |
Livingstone | 1 | 0 | |
Mbandaka | 3 | 0 | |
Montevideo | 10 | 2 (20.0) | |
Oranienburg | 1 | 0 | |
Potsdam | 1 | 0 | |
Rissen | 1 | 0 | |
Thompson | 13 | 0 | |
Virchow | 3 | 0 | |
小計 | 49 (31.6) | 9 (18.4) | |
O8 | Albany | 1 | 0 |
Bovismorbificans | 1 | 0 | |
Corvallis | 1 | 0 | |
Hadar | 7 | 6 (85.7) | |
Litchfield | 4 | 0 | |
Manhattan | 5 | 5 (100) | |
Nagoya | 2 | 0 | |
Narashino | 1 | 0 | |
Newport | 3 | 0 | |
UT** | 1 | 0 | |
小計 | 26 (16.8) | 11 (42.3) | |
O9 | Enteritidis | 25 | 18 (72.0) |
小計 | 25 (16.1) | 18 (72.0) | |
O3,10 | Anatum | 2 | 1 (50.0) |
London | 2 | 0 | |
Muenster | 1 | 0 | |
Uganda | 2 | 0 | |
O3,10:-:z6 | 1 | 0 | |
小計 | 8 (5.2) | 0 | |
O1,3,19 | Senftenberg | 2 | 0 |
小計 | 2 (1.3) | 0 | |
合計 | 155 (100) | 51 (32.9) |
*供試薬剤(10種類)の内、1薬剤以上に耐性を示した菌株
**UT: 型別不能
(微生物部 食品微生物研究科 腸内細菌研究室・食中毒研究室)