東京都健康安全研究センター
感染症発生動向調査におけるパピローマウイルス(HPV)遺伝子検出状況(2012年)

 ヒトパピローマウイルス(HPV)は約8,000塩基からなる環状二本鎖のDNAウイルスである。皮膚や粘膜の細胞に感染腫瘍を作り、子宮頚癌などの悪性腫瘍の発生にも深く関与するウイルスである。培養することが困難であるため、遺伝子の塩基配列に基づくHPVの型別が行われており、現在100種類以上の遺伝子型に分類されている。

 生殖器や肛門周囲等の粘膜に感染するHPVは性器・粘膜型と呼ばれ、40種類以上の遺伝子型が知られている。これらは発がんに関与するリスク評価により低リスク群、高リスク群に分類される。低リスク群は尖圭コンジローマなどの良性病変から検出される6,11型等、高リスク群は子宮頚癌などの悪性病変から検出される16,18型等が挙げられる(表1)。

 尖圭コンジローマは感染症法において五類感染症に分類され、梅毒、クラミジア、淋菌同様に性感染症(STI)の一つとして知られており、発生動向を把握すべき疾患に指定されている。症状としては、生殖器やその周辺にイボ状の突起や、淡紅色ないし褐色の乳頭状、鶏冠状、あるいはカリフラワー状の隆起性の良性病変(コンジローマ)が形成される。

 感染症発生動向調査における性感染症の月別報告数をみると、東京都におけるSTIの報告数は全国平均に比べ著しく多い状況にある。このような状況を受け、東京都では独自にSTI病原体定点医療機関を設置し、感染症発生動向調査として、種々のSTI病原体調査を行っている。

 今回は、STI病原体の中でもHPV遺伝子検出状況について報告する。

 STI病原体定点から搬入された尖圭コンジローマ患者の患部ぬぐいや生検材料(コンジローマ切除片)またはHPV感染が疑われる患者の頚管ぬぐいについては、各検査材料からDNAを抽出後、HPV遺伝子のL1領域を標的としたmultiplex PCR法を行い、HPV遺伝子の検出を行った。特異的なバンドが検出された場合には塩基配列を決定し、HPVの遺伝子型別を実施した。加えて、尖圭コンジローマ疑い患者の検体については、HPV遺伝子のE2領域を標的としたreal-time PCR法を併用し、HPV6型およびHPV11型の検出を行った。

 その結果、2012年に搬入された69検体中50検体(72.5%)からHPV遺伝子が検出された。このうちの9検体(13.0%)では1つの検体から複数の遺伝子型が検出され、合計60件のHPV遺伝子型に型別された。検出されたHPV遺伝子型をリスク分類別にみると(表2)、低リスク群HPVは44件(73.3%)で、内訳はHPV6型が30件(68.2%)、HPV11型が14件(31.8%)であった。高リスク群HPVは16件(26.7%)で、内訳はHPV58型4件、HPV52型、56型、67型が各2件、HPV16型、31型、33型、39型、53型、82型が各1件であった。

 HPV感染を予防する方法のひとつとして、HPVワクチン接種が挙げられている。日本においても2009年10月にHPV16,18型を対象とした2価HPVワクチンが、2011年7月にHPV6,11,16,18型を対象とした4価ワクチンが承認され、HPVのワクチン接種が任意接種で可能となっている。

 ワクチン接種対象者は「13歳となる日の属する年度の初日から16歳となる日の属する年度の末日までにある女性」とされ、ワクチン接種費用に対する公費助成が行われているが、助成対象者および助成金額は自治体により異なっている。

 4価ワクチンは、尖圭コンジローマに対しても予防効果が期待されており、接種年代の女性の発症率ばかりでなく、パートナーである男性の発症率も低下することが報告されている。

HPVの感染は、尖圭コンジローマやイボを起こすばかりでなく、子宮頚癌や陰茎癌の原因になる可能性もある。また、ひとつの性感染症に罹患していると他の性感染症にも罹患しやすいとも言われていることから、今後も東京都内のSTI病原体定点医療機関におけるHPV調査を継続し、東京都内におけるSTI感染症の実態を把握していくことが重要と考えている。

(ウイルス研究科 エイズ・インフルエンザ研究室)

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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