東京都健康安全研究センター
平成24年の食中毒発生状況

 平成24年に全国および東京都内で発生した食中毒事例の概要と特徴について、厚生労働省医薬食品局食品安全部並びに東京都福祉保健局健康安全部の資料に基づいて紹介する。 

 

1.全国における発生状況

 食中毒事例総数は1,100件、患者数は26,699名(死亡者11名)であり、事例数は前年比1.03でほぼ同じであるが、患者数は前年比1.23で約5,000人増加した。

 事例数を原因物質別に見ると、細菌性食中毒は419件(38.1%)、前年(543件)比0.77で大きく減少した。一方、ウイルス性食中毒は432件で、前年(302件)比1.43と大きく増加した。

 細菌性食中毒の原因菌別の第1位はカンピロバクター266件(24.2%)で、以下、黄色ブドウ球菌44件(4.0%)、サルモネラ40件(3.6%)、ウエルシュ菌26件(2.4%)、腸管出血性大腸菌16件(1.5%)、腸炎ビブリオ9件(0.8%)、腸管出血性大腸菌以外の大腸菌5件(0.5%)、エルシニア3件(0.3%)、セレウス菌2件(0.2%)、そしてナグビブリオ、ボツリヌス菌がそれぞれ1件(0.1%)、その他の細菌が6件(0.5%)であった。

 細菌性食中毒の患者数は5,964名(22.3%)、前年比0.54で大きく減少した。これは、サルモネラ、大腸菌、ウエルシュ菌、カンピロバクターなどによる食中毒患者数が大きく減少したためである。患者数の多い原因菌は、カンピロバクター(1,834名)、ウエルシュ菌(1,597名)であった。サルモネラによる患者数は670名で、1,000名を下回ったのは平成8年以降では初めてのことである。1事例あたり患者数500名以上の大規模な細菌性食中毒はなかった。ボツリヌス菌による1事例は「あずきばっとう」を原因食品とするA型ボツリヌス菌の事例であった。「あずきばっとう」はぜんざいの餅の代わりに平打ちのうどんが入った食品であり、食品および患者検便からA型ボツリヌス菌が検出された。またエルシニアによる食中毒が8年ぶりに発生した。3事例はいずれもエルシニア・エンテロコリチカO8を原因菌とし、原因食品は飲料水(簡易水道)が1事例、旅館の食事が2事例であった。

 食中毒による死者11名の内8名は、8月に北海道で高齢者施設等において発生した患者数169名の腸管出血性大腸菌O157の事例によるものである。有症者の検便および施設に保存されていた白菜の浅漬から腸管出血性大腸菌O157が検出され、これらの遺伝子型が一致し、原因食品が特定された。この事件を契機に「漬物の衛生規範」の改正(平成24年10月12日 食安監発1012第1号)が行われた。主な改正内容として温度管理および洗浄、殺菌を徹底することなどが追加された。

 一方、ノロウイルスによる食中毒は事例数416件(37.8%)、患者数17,632名(66.0%)で事例数、患者数共に大きく増加した。特に患者数は約9,000人増加したが、この中には、大規模食中毒2件(患者数1,442名および2,035名、いずれも原因施設は仕出屋)が含まれる。化学物質による食中毒は15件、植物性自然毒は70件、動物性自然毒は27件であった。死者3名のうち2名は植物性自然毒(トリカブト)、1名は動物性自然毒(アオブダイ)であった。

 

2.東京都のおける発生状況

 都内の食中毒発生状況は、事例数142件(患者数2,103名)であり、平成23年の事件数133件(患者数1,515名)と比べ、事例数で1.07倍、患者数で1.39倍と共にやや増加した。これは全国の発生状況と同様にノロウイルス事例の増加が主な原因であった。

 食中毒142件中、細菌性によるものは59件(41.5%)であった。原因菌では8年連続でカンピロバクターが1位で42件(29.6%)、次いで、サルモネラ3件(2.1%)、黄色ブドウ球菌2件(1.4%)、腸炎ビブリオ2件(1.4%)腸管出血性大腸菌1件(0.7%)、ウエルシュ菌1件(0.7%)であった。患者数100名以上の大規模事例はなかった。

 カンピロバクター食中毒は、生あるいは加熱不十分の鶏肉および牛の生レバーを喫食することで発生することが多い。平成24年はカンピロバクターによる食中毒が細菌性食中毒の8割以上を占めたが、食中毒が増加した一因として7月1日から施行された生食用牛レバーの販売・提供の禁止(罰則付きの規制)に伴う駆け込み需要の増加が挙げられる。規制直前の一週間に発生したカンピロバクター食中毒は8事例あり、そのうち6事例が牛レバ刺しを喫食していた。

 ノロウイルスによる食中毒は、事例数59件(41.5%)、患者数1,545名(73.5%)であった。前年比はそれぞれ1.18および1.91で、患者数は700名以上増加し、食中毒全体の7割を超えていた。患者数が100名以上の事例は1件(患者263名、仕出弁当を原因)であった。また、患者数30名を超えた事例が13件発生するなど、比較的規模の大きな事例が多かった。生カキを原因とする事例は10件で、調理従事者の手指などを介した二次汚染が原因とされた事例は41件(ノロウイルス食中毒の69.5%)であった。

 化学物質による食中毒5件のうち3件はヒスタミンによるもの、2件は洗剤の誤飲であった。植物性自然毒は1件のみでジャガイモのソラニンによるものであった。

 アニサキスによる事例は以前は年間1~2件であったが、平成22年に6件、平成23年に10件と近年著しく増加しており、平成24年には事件数22件(患者数24名)にのぼった。シメサバなどの生鮮魚介類が主な原因である。また、ヒラメの生食を原因とするクドア・セプテンプンクタータによる事例も2件発生した。

 原因物質不明の事例は2件で、その内の1件ではヒラメの生食が原因と推定されたが原因物質の特定には至らなかった。他の1件では複数の患者検便から耐熱性毒素様毒素遺伝子(astA)保有大腸菌が検出された。本菌は、下痢症との関連が強く疑われているが(IASR Vol.33 No1 2012年、国立感染症研究所)、学問的にも十分解明されておらず、原因物質不明となった。このような病因物質の究明にむけた研究が今後の課題である。 

                        (食品微生物研究科 食中毒研究室)

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