東京都健康安全研究センター
東京都において分離されたサルモネラの血清型および薬剤感受性について(2012年)

 2012年に東京都健康安全研究センター並びに都・区検査機関、都内の病院、登録衛生検査所等で分離されたサルモネラを対象に、血清型および薬剤感受性についてまとめたので、その概略を紹介する。チフス菌およびパラチフスA菌については、国立感染症研究所(感染研)に依頼したファージ型別の成績も併せて紹介する。

 供試菌株は、都内の患者とその関係者および保菌者検索事業によって分離されたサルモネラ155株(チフス菌11株、パラチフスA菌10株、その他のサルモネラ134株)である。血清型別は、常法によりO群およびH抗原について行った。薬剤感受性試験は「東京都において分離された赤痢菌の菌種、血清型及び薬剤感受性について(2012年)」(34巻第6号)に記載した方法と同様にCLSI法に基づいて行った。

 

1.チフス菌およびパラチフスA菌
 薬剤耐性菌出現頻度および薬剤耐性パターンを表1に示した。チフス菌11株は海外由来9株、国内由来2株であった。海外由来株のうち7株は供試した薬剤のうちいずれかに耐性を示し、特にパキスタン旅行者から分離された1株はCP・TC・ABPC・ST・NAの5剤に耐性を示した。その他、NA・NFLXの2剤耐性が2株(海外渡航歴;インド1株、インド+タイ+ラオス1株)、NA単剤耐性が4株(インド2、バングラデシュ1、インド+タイ1)であった。供試薬剤全てに感受性の株は2株(マレーシア、インドネシア+中国)であった。国内由来2株はNA単剤耐性株と感受性株であった。チフス菌11株のうち、ファージ型別を実施した10株の内訳は、E1型およびE9型が各2株で、B1型、B2型、D2型、M1型が各1株、UVS(Untypable Vi strain)4型が2株と多彩であった。

 パラチフスA菌10株は全て海外由来株で、耐性株は8株であった。このうち6株はNA・FOMの2剤耐性株(インド5、パキスタン1)で、2株はNA単剤に耐性を示した(ともにインド)。パラチフスA菌10株のファージ型は、1型:4株、2型:2株、6型:1株、UT(Untypable):3株であった。

 NA耐性を示したチフス菌およびパラチフスA菌16株について、フルオロキノロン系薬剤に対するMICを測定した。チフス菌は2株が耐性(CPFX:16-12μg/ml、LVFX:4-8μg/ml、OFLX:16μg/ml、NFLX:64-128μg/ml)、6株が中間(CPFX:0.25-0.50μg/ml、LVFX:0.25-0.50μg/ml、OFLX:0.50-1.0μg/ml、NFLX:1.0-4.0μg/ml)を示した。パラチフスA菌8株は、OFLXに対して耐性(2.0-4.0μg/ml)を示し、それ以外の3薬剤に対しては中間(CPFX:全て0.50μg/ml、LVFX:0.50-1.0μg/ml、NFLX:2.0-4.0μg/ml)を示した。

 なお、CLSIドキュメントにおいて、2012年および2013年に相次いでチフス菌、パラチフスA-C菌、サルモネラ属菌に対するフルオロキノロン系抗菌薬の判定基準の変更が行われた(判定MIC値が引き下げられた。ただし、NFLXに対しては記載なし)。2013年1月現在の判定基準は表2のとおりである。

 

2.チフス菌・パラチフスA菌以外のサルモネラ
 供試した134株(全て国内由来株)の血清型および耐性菌の出現頻度を表3に示した。主なO群は、O4群41株(30.6%)、O7群41株(30.6%)、O8群23株(17.2%)、O9群21株(15.7%)で、これらで全体の94.0%を占めた。主な血清型は、S. Enteritidis(O9群,19株)、S. Infantis(O7群,13株)、S. Typhimurium(O4群,12株)であった。
 サルモネラ134株中52株(38.8%)が薬剤耐性株で、2011年(32.9%)と同程度の耐性頻度であり、各薬剤に対する耐性頻度についても、SM(25.4%)、TC(20.1%)、NA(12.7%)、ABPC(9.0%)、ST (4.5%)、CP (3.7%)、KM(3.7%)、FOM(0.7%)の順で、同様の傾向であった。なお、NFLXおよびCTXに対する耐性株は認められなかった。

 薬剤耐性パターンは20種類で、TC・SM(10株)、NA単剤(9株)、およびSM単剤(5株)が主要なものであった。O群別の耐性頻度では、O4群(58.5%)、O9群(52.4%)、O8群(52.2%)が高かった。最も多く検出された血清型であるS. Enteritidisの耐性頻度は57.9%で、NA単剤耐性(8株)およびSM単剤耐性(3株)であった。NA耐性を示したサルモネラ17株について、フルオロキノロン系薬剤に対するMICを測定した結果、3株がOFLXに対して耐性であった以外は、全ての株が中間を示した(CPFX:0.19-0.50μg/ml、LVFX:0.38-1.0μg/ml、OFLX:1.0-2.0μg/ml、NFLX:1.0-2.0μg/ml)。
 今後も、引き続きこれら耐性菌の動向を注意深く監視する必要がある。

(微生物部 食品微生物研究科 腸内細菌研究室・食中毒研究室)

 

 

 

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