東京都健康安全研究センター
東京都におけるウイルス性胃腸炎の集団発生事例(2012年9月~2013年8月)

 厚生労働省食中毒統計によれば、2008年から2012年の5年間においてノロウイルスによる食中毒は、事例数で1位か2位であり、患者数は常に1位であった。このようにノロウイルスをはじめとしたウイルス性胃腸炎は、食中毒として大きな割合を占めている。一方、食品の関与しない感染症的なウイルス性胃腸炎の施設内流行も例年同様発生しており、全国的には高齢者施設等で死亡例への関与が報告された事例もある。本報では、当センターで検査を実施した集団胃腸炎事例における2012/13流行期(2012年9月~2013年8月)のウイルス検出状況について概説する。

 食中毒疑いを含む急性胃腸炎事例について糞便試料を主な検査材料として胃腸炎起因ウイルス検索を実施した。検索の対象としたウイルスはノロウイルス(Norovirus:NoV)、サポウイルス(Sapovirus:SaV)、ロタウイルス(Rotavirus:RV)、アストロウイルス(Astrovirus:AstV)およびアデノウイルス(Adenovirus:AdV)である。NoVおよびSaVはreal-time PCR法により、RV、AstV、AdVは市販の抗原検出用試薬もしくはreal-time PCR法によりウイルス検索を実施した。

 2012/13流行期は502事例についてウイルス検索を実施し、313事例(62.4%)からウイルスが検出された。前シーズンの同時期検査事例数は519事例、ウイルス検出事例277事例(53.4%)であり、2012/13流行期は前期と比べ、検査事例数に大きな差はないが、ウイルス検出事例数の割合が高かった。

 胃腸炎起因ウイルスが検出された313事例中、NoVは293事例(93.6%)から検出され、例年の発生状況同様にウイルス性胃腸炎集団事例の主因を占めていた。NoVが検出された293事例のうち249事例(85.0%)からGⅡが検出され、GⅠは26事例(8.9%)から検出された。GⅠとGⅡが同時に検出された事例は18事例(6.1%)であった。

 NoV以外のウイルスの検出状況はSaV 22事例、A群RV(RVA)3事例、NoVとSaVの同時検出事例5事例、NoVとAdVの同時検出1事例であった。

 この流行期のウイルス性胃腸炎発生状況は、秋から東京都を含めた国内各地で報告(国立感染症研究所感染症疫学センターIASR 33: 333, 2012.)がみられたNoVのGII.4変異株(Sydney/NSW0514/2012/AU(JX459908)の出現の影響もあってか、患者発生のピークの立ち上がりが11月と早く、ピーク期(11月から1月)における検査事例数は225事例、ウイルス検出事例数は190事例(84.4%)件で、前ピーク期の検査事例数187事例、ウイルス検出事例133事例(71.1%)と比較して大きなピークとなった。ピーク期に検出されたGII.4は、ほぼこのSydney/NSW0514類似株であった。

 前年の2011年は例年と異なり、全国的に6月を中心として岩カキの関与したウイルス検出事例が報告され、食中毒統計においてもひとつのピークを形成していた。しかし、このような岩カキ関連事例は、2011/12流行期は1事例のみ、2012/13流行期には認められなかった。

 ウイルス性胃腸炎事例は、飲食店の利用や給食、仕出し等を原因とした食中毒疑い事例のほか、高齢者施設、幼稚園や保育園、小学校などでも発生事例があり、例年同様に幅広い年齢層からウイルスが検出された。

 RVAは、前シーズン(2011/12流行期)に集団胃腸炎事例からの検出事例が多くみられたが、2012/13流行期には減少した。また、2009年以降、高齢者施設で発生した集団胃腸炎事例から検出されたRVAの型はG2という傾向がみられたが、今シーズンも同様であった。

 SaVが検出される集団胃腸炎事例は年間で10~20事例であったが、今期では、2013年に入り他県市の関連事例を含めて17事例からSaVが検出された。この17事例のうち16事例はGI.2に型別され、他県からもGI.2の検出報告(国立感染症研究所感染症疫学センターIASR 34:69,2013IASR 34:206,2013)がみられるように、この型のSaVの全国的な流行が推定された。

 ウイルス性胃腸炎はNoVに起因するものが多くの割合を占めており、その他の胃腸炎ウイルスの検出頻度はそれほど高くない状況にある。しかし、SaVによる集団胃腸炎は、二枚貝類の喫食や調理従事者の関与が推定される食中毒事例がみられるほか、施設内での食品を介さないヒトからヒトへの伝播などNoVと同様の感染経路により集団胃腸炎が発生していると考えられる。また、他県においては調理従事者の関与が推定される大規模な食中毒事例も発生している。NoV以外の胃腸炎ウイルスについて、今後も確実にウイルス検索を実施する必要があるとともに、NoV同様に調理従事者対策を重視することが、SaVによる集団胃腸炎の予防対策として重要であると考えられる。

 

本ホームページに関わる著作権は東京都健康安全研究センターに帰属します ご利用にあたって
© 2023 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. All rights reserved.