平成25年に全国および東京都内で発生した食中毒事件の概要と特徴について、厚生労働省医薬食品局食品安全部並びに東京都福祉保健局健康安全部の資料に基づいて紹介する。
1.全国における発生状況
食中毒事件総数は931件、患者数は20,802名(死亡者1名)であり、事件数は前年比0.85、患者数は前年比0.78でどちらも減少した。事件数が1,000件を下回ったのは平成8年以降では初めてのことである。1事件当たりの患者数500名以上の事件は、2件(細菌、ノロウイルスによるものが各1件)であった。
事件数を原因物質別に見ると、細菌性食中毒は361件(38.8%)、前年比0.86であった。原因菌別の第1位はカンピロバクターで227件(24.4%)、以下、サルモネラ34件(3.7%)、黄色ブドウ球菌29件(3.1%)、ウエルシュ菌19件(2.0%)、腸管出血性大腸菌13件(1.4%)、腸管出血性大腸菌以外の大腸菌11件(1.2%)、腸炎ビブリオ9件(1.0%)、セレウス菌8件(0.9%)、ナグビブリオ3件(0.3%)、エルシニア1件(0.1%)、その他の細菌が7件(0.8%)であった。カンピロバクター食中毒の発生数は11年連続第1位である。
細菌性食中毒の患者数は6,055名(29.1%)、前年比1.02でやや増加した。患者数の多い原因菌は、カンピロバクターで1,551名、次いで腸管出血性大腸菌以外の大腸菌が1,007名であった。これには、北海道において当該施設で調理・提供された食事を喫食した人のうち516名が発症した事件が含まれる。この事件は複数の病原大腸菌(腸管凝集付着性大腸菌、毒素原性大腸菌)によるもので、1事件あたり患者数500名以上の大規模食中毒となった。
ナグビブリオによる食中毒が3件(大分県2件:患者数396名、32名、石川県1件:患者数18名)発生した。原因食品はいずれも仕出し弁当および旅館の食事として提供されたニシ貝を利用した料理で、これらはいずれも同じ加工業者から仕入れたニシ貝を原因とするものであった。患者便、検食(ニシ貝の酢味噌和え)および未開封のニシ貝(メキシコ産)からナグビブリオが検出されたため、ニシ貝が原因食品と断定された(IASR Vol.35 No5、 2014年、国立感染症研究所)。
一方、ノロウイルスによる食中毒は事件数328件(35.2%)、患者数12,672名(60.9%)であった。前年比は事件数0.79、患者数0.72と減少したが、患者数は食中毒全体の60.9%を占めていた。大規模事例としては仕出し弁当を原因とした患者数526名の食中毒があった。調理従事者の中に体調不良者がいたことから、盛付け時に食品を汚染したことが原因と推定された。
また平成24年12月28日には食品衛生法施行規則の一部が改正され、食中毒病因物質の種別に「クドア」、「サルコシスティス」、「アニサキス」、「その他の寄生虫」が追加された。これまで寄生虫による食中毒は「原因物質不明」に計上されていたが、平成25年1月1日から上記項目のとおり、表記されるようになった。
化学物質による食中毒は10件、植物性自然毒は50件、動物性自然毒は21件であった。死者1名は植物性自然毒(キノコ)によるものであった。
2.東京都のおける発生状況
都内の食中毒発生状況は、事件数87件(患者数1,324名)であり、平成24年の事件数142件(患者数2,103名)と比べ、事件数で0.61倍、患者数で0.63倍と大きく減少した。これは食中毒事件の大半を占めるカンピロバクターとノロウイルスによる食中毒が減少したためである。
食中毒87件中、細菌によるものは37件(42.5%)であった。原因菌ではカンピロバクターが最も多く23件(26.4%)であったが、前年の42件に比べて半減した。平成24年7月、生食用牛レバーの販売・提供が禁止になって以降、牛レバーを原因食品とするカンピロバクター食中毒は認められていない。一方、豚レバ刺しを原因としたカンピロバクターおよびサルモネラの事件が発生した。豚の食肉(内臓を含む)はE型肝炎ウイルス、細菌および寄生虫などに汚染されている可能性もあり、食品安全委員会が「健康へのリスクが大きく、禁止は妥当」という結論を出している。今後、豚肉の生食禁止への法整備が見込まれる。次いで、サルモネラ6件(6.9%)、ウエルシュ菌3件(3.4%)、黄色ブドウ球菌2件(2.3%)、腸管出血性大腸菌2件(2.3%)、腸炎ビブリオ1件(1.1%)、エルシニア1件(1.1%)であった。エルシニアによる食中毒は都内初事例で、寮の給食を原因とするものであった。原因菌はエルシニア・エンテロコリチカ血清群O8であり、患者便および検食の野菜サラダから同血清型菌が検出された(IASR Vol.35 No1、2014年、国立感染症研究所)。患者数100名以上の事件は、ウエルシュ菌の1事件(患者数201名)のみであった。本事件は、製造能力をはるかに超える大量調理によって作られた弁当を長時間室温保管したことが原因と考えられた。
腸管出血性大腸菌O157による1事件は、散発患者由来菌株を遺伝子解析(PFGE解析)したことにより共通の飲食店が判明した事件であった。最終的に7グループ17名の患者が確認された。
ノロウイルスによる食中毒は、事件数25件(28.7%)、患者数569名(43.0%)であった。前年比はそれぞれ0.42および0.37で、患者数は1,000名近く減少した。患者数が100名以上の事件は1件(患者112名)で、調理従事者の手指を介した二次汚染が原因と考えられた。
化学物質による食中毒3件のうち、2件はヒスタミン、1件は洗剤によるものであった。ヒスタミンによる1事件は「イワシのつみれ」を原因とする患者数109名の事件であった。植物性自然毒による食中毒は2件で、ジャガイモのソラニンおよびクワズイモのシュウ酸カルシウムによるものであった。
アニサキスによる食中毒は15件発生し、全てシメサバなどの生鮮魚介類を原因とするものであった。また、原因物質不明3件のうち、2件は「ヒラメの昆布〆」や「鮮魚のお造り」の喫食者であり、クドアの関与が強く疑われたが、原因物質の特定には至らなかった。
これまで原因不明下痢症とされていた事件の中には、クドアやサルコシスティスによる食中毒が含まれることが明らかとなった。しかし、原因不明事件もまだ存在するため、今後も原因究明のための調査・研究を継続していく必要がある。
(食品微生物研究科 食中毒研究室)