病原体レファレンス事業は、都内で発生する感染症の病原体を、医療機関等の協力を得て積極的に収集し、病原体の性状や遺伝子を比較・解析することにより、流行型の血清型、薬剤耐性および遺伝子変異等を把握し、監視していくことを目的としている。本事業の一環として、主として感染症法では収集体制が確保されていない病原体(カンピロバクター、大腸菌、サルモネラ、エルシニア、劇症型以外の溶血性レンサ球菌等)を対象として解析を行なっている。
平成25年度に都立病院及び都保健医療公社病院から送付された病原体(菌株)は656株であった(表1)。各病原体の種類・解析結果は、以下のとおりである。
1.カンピロバクター
カンピロバクター属菌として送付された菌株は108株で、その内訳はCampylobacter jejuni 93株(86.1%)、C. coli 12株(11.1 %)、C. fetus 2株(1.9%)およびHelicobacter cinaedi 1株(0.9 %)であった。C. fetus 1株およびH. cinaediは血液由来、その他106株 (98.1%) は糞便由来であった。
血清型別はC. jejuni を対象として、Lior法(易熱性抗原を用いた型別法)により行った。血清型は、型別不能の26株を除き18種類に型別された(型別率72.0%)。検出頻度の高い血清型は、LIO 4: 19株(20.4 %)、LIO 1: 7株(7.5 %)、LIO 36: 6株(6.5 %)、TCK 1: 6株(6.5%)であった(表2)。
2.大腸菌
下痢症患者由来の大腸菌は360株搬入された。検査の結果、毒素原性大腸菌(ETEC)は26株(7.2%)で、それらは10種類のO血清群に分類された。最も多く検出されたのはO6(5株)、次いでO25(4株)、O15およびO169(各3株)であった(表3)。ETECが検出された患者は、全てに海外渡航歴が認められ、推定感染地域はインドやインドネシアが多かった。
3.サルモネラ
サルモネラは26株搬入され、10種類の血清型に分類された。最も多い血清型はO9群Enteritidisで10株、次いでO4群Saintpaulが5株、O4群Schwarzengrund、O7群ThompsonおよびO8群Corvallisが各2株であった(表4)。サルモネラが検出された患者の多くに海外渡航歴は認められず、国内での感染が推定された。海外での感染が推定されたのはタンザニア(O8群Hadar)およびマレーシア(O8群Corvallis)であった。
搬入された26株について、アンピシリン(ABPC)、セフォタキシム(CTX)、ゲンタマイシン(GM)、カナマイシン(KM)、ストレプトマイシン(SM)、テトラサイクリン(TC)、クロラムフェニコール(CP)、ST合剤(ST)、ナリジクス酸(NA)、シプロフロキサシン(CPFX)、ノルフロキサシン(NFLX)、オフロキサシン(OFLX)、ホスホマイシン(FOM)、スルフイソキサゾール(Su)を用いた薬剤感受性試験を実施した。その結果、いずれか1剤以上に耐性を示した株は11株(42.3%)であった(表5)。
4.エルシニア
Yersinia enterocoliticaは8株搬入され、その血清型はO8群が6株、O3群が2株であった。推定感染地域は、国内が3株、不明は5株であった。
5.レンサ球菌
レンサ球菌は40株搬入され、その内訳は、A群が8株、B群が25株、C群が1株、G群が4株、肺炎球菌が2株であった。
A群レンサ球菌8株はすべてStreptococcus pyogenesであり、T血清型は1型(3株)が最も多く、4型(2株)、6型(1株)、B3264型(1株)、T11型(1株)であり、発熱性毒素産生性ではB産生株(3株)、B+C産生株(4株)、A+B産生株(1株)であった。
B群レンサ球菌 (S.agalactiae ) の25株の血清型は、Ia型(8株)、Ⅰb型(5株)、Ⅲ型(4株)、Ⅴ型(2株)、Ⅵ型(4株)で、Ⅳ型と型別不能がそれぞれ1株であった。またC群(1株)及びG群レンサ球菌(4株)は、全てS.dysgalactiae ssp. equisimilisであった。
肺炎球菌は血液及び髄液から分離された侵襲性肺炎球菌感染症患者由来株(2株)であった。ペニシリン(PCG)に対する薬剤感受性試験の結果、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)とペニシリン感受性肺炎球菌(PSSP)が各1株で、血清型は、PRSPが23型、PSSPが10A型であった。
6.黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌は107株搬入された(表6)。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は71株で、コアグラーゼ型は、Ⅲ型が最も多く(29株)、次いでⅦ型(20株)であった。毒素型はSEC+TSST-1産生株が26株で最も多く、そのうち22株(85%)がコアグラーゼⅡ型またはⅢ型であった。また、表皮剥脱毒素(EXT)B産生株は5株で、すべてコアグラーゼⅠ型であった。
メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)は36株で、コアグラーゼⅦ型が9株、次いで、Ⅴ型が8株であった。毒素型は、非産生株が14株と最も多かった。EXT A産生株は4株で、そのコアグラーゼ型は、Ⅴ型(3株)、Ⅶ型(1株)であった。
7.髄膜炎菌
髄膜炎菌は4株搬入され、PCR法による血清型別の結果、B群、C群、Y群及び型別不能が各1株であった。
8. その他
ウェルシュ菌が1株搬入された。本株は、エンテロトキシン非産生性であった。
微生物部 食品微生物研究科
病原細菌研究科