平成26年に全国および東京都内で発生した食中毒事件の概要と特徴について、厚生労働省医薬食品局食品安全部並びに東京都福祉保健局健康安全部の資料に基づいて紹介する。
1.全国における発生状況
食中毒事件総数は976件、患者数は19,355名(死亡者2名)であり、事件数は前年比1.05、患者数は前年比0.93であった。事件数は2年連続で1,000件を下回った。患者数が20,000人を下回ったのは食中毒統計が公表された昭和27年以降初めてのことである。
事件数を原因物質別に見ると、細菌性食中毒は440件(45.1%)、前年比1.22であった。原因菌別の第1位はカンピロバクターで306件(31.4%)、以下、サルモネラ35件(3.6%)、黄色ブドウ球菌26件(2.7%)、腸管出血性大腸菌25件(2.6%)、ウエルシュ菌25件(2.6%)、腸炎ビブリオ6件(0.6%)、セレウス菌6件(0.6%)、腸管出血性大腸菌以外の大腸菌3件(0.3%)、エルシニア、チフス菌1件、ナグビブリオが各1件(0.1%)、その他の細菌が5件(0.5%)であった。
細菌性食中毒の患者数は7,210名(37.3%)、前年比1.19でやや増加した。患者数の多い原因菌は、ウエルシュ菌(2,373名)で、次いでカンピロバクター(1,893名)、黄色ブドウ球菌(1,277名)であった。1事件あたり患者数500名以上の大規模食中毒は3件発生した。その内訳は、①ウエルシュ菌による「キーマカレー」を原因食品とする事件(患者数900名)、②黄色ブドウ球菌による「鳥そぼろ(三色丼弁当)」を原因食品とする事件(患者数741名)、③腸管出血性大腸菌O157による花火大会の露店で販売された「冷やしきゅうり」を原因食品とする事件(患者510名)である。
また、「馬刺し」を原因とした腸管出血性大腸菌O157による食中毒事件が発生した。患者は11都県88名と広域にわたり、同じ食肉処理業者が出荷した馬刺しを喫食していた。複数の未開封馬刺し製品から、患者と同一遺伝子型の腸管出血性大腸菌O157が検出されたことなどから、処理加工段階での汚染があったと推定された。
一方、ノロウイルスによる食中毒は事件数293件(30.0%)、患者数10,506名(54.3%)であった。前年比は事件数0.89、患者数0.83と減少した。1事件あたり患者数500名以上の大規模食中毒は1件発生し、浜松市で発生した「食パン」を原因とする患者1,271名の事件であった。従業員からの二次汚染が原因と推定された。
昨年より食中毒病因物質の種別に追加されたアニサキスは79件、クドア・セプテンプンクタータは43件であった。
化学物質による食中毒は10件、植物性自然毒は48件、動物性自然毒は31件であった。その他の1件はサポウイルスと毒素原性大腸菌O6の混合感染であった。死者は2名で、1名は植物性自然毒(イヌサフラン)、1名は動物性自然毒(ふぐ)によるものであった。
2.東京都のおける発生状況
都内の食中毒発生状況は、事件数103件(患者数1,096名)であり、平成25年の事件数87件(患者数1,324名)と比べ、事件数は1.18倍に増加したが、患者数は0.83倍と減少した。これは患者数100名以上の事件がなかったためである。
食中毒103件中、細菌によるものは58件(56.3%)であった。原因菌ではカンピロバクターが最も多く36件(35.0%)、以下、サルモネラ8件(7.8%)、腸管出血性大腸菌5件(4.9%)、黄色ブドウ球菌4件(3.9%)、セレウス菌3件(2.9%)、ウエルシュ菌2件(1.9%)、チフス菌1件(1.0%)であった。平成26年9月に渡航歴のないチフス症患者が複数確認されたため、調査が行われた結果、共通の飲食店が原因であることが確認された。当該施設の調理従業員1名からチフス菌を検出し、疫学調査結果から「生サラダ」が原因食品として推定された。チフス菌による食中毒事件は平成12年に本菌が食中毒の病因物質に追加されて以降、我が国で初めての事例となった。チフス菌は、ヒトが保菌し、患者、保菌者の便・尿により汚染された食物、水を介して経口感染する。腸チフスの潜伏期は7~14日間と長く、感染源の特定が非常に困難であり、今回、原因が特定されたのは貴重な事例である。
ノロウイルスによる食中毒は、事件数22件(21.4%)、患者数600名(54.7%)であった。前年比はそれぞれ0.88および1.05で、事件数、患者数ともに前年とほぼ同数であった。
化学物質による食中毒2件はヒスタミンによるものであった。植物性自然毒による食中毒は1件で、ヨウシュヤマゴボウによるものであった。
アニサキスによる食中毒は12件発生した。クドア・セプテンプンクタータによる食中毒は4件発生し、全てヒラメを喫食していた。また、原因物質不明3件のうち、1件はヒラメを喫食者していた。
食中毒事件数は、年々減少傾向にある。しかし、広域、大規模となる事例も発生しており、それらは社会的影響も大きいことから引き続き食中毒の予防に努めていかねばならない。