平成25年の東京都における腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の発生届出数は382名で,平成24年と比較し100名以上増加した(東京都感染症発生動向調査)。一方,東京都保菌者検索事業および感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づく積極的疫学調査として,都内の病院,検査センターおよび保健所等で分離され,保健所を通じて当センターに搬入されたEHECは328株(平成24年は229株)であった。分離株の血清群はO157が最も多く254株(77.5%),次いでO26が47株(14.4%),O103が10株(3.0%),O145が6株(1.8%),O121が4株(1.2%),O76,O91,O115が各1株(0.3%),OUT(O群型別不能)が4株(1.2%)であった(表1)。血清群O26は47株分離されたが,そのうち25株は保育園で発生した集団感染事例由来株であった。例年と比較して保育園で発生した集団感染事例が多く,合計4事例(O157:2事例,O26:1事例,O26およびO103:1事例)あった。これまでに分離されたO26の産生毒素をみると,VT1産生株が主体で,VT2単独産生株は非常に少ない。しかし9月に発生したO26の集団感染事例由来17株の毒素型がVT2であったため,本年はVT2単独産生株が多くなっている。
平成25年に都内で発生したEHECによる食中毒は,居酒屋の食事を原因とした事例(5月)および飲食店で発生した事例(7月)の2事例であった。原因菌の血清群は2事例ともO157であった。これらの事例の概要は以下のとおりである。
1. 居酒屋で発生したEHEC O157による食中毒事例
5月27日,保健所にO157(VT2)の発生届出があり,調査の結果同じグループの2名も発症していることが判明した。この初発患者を含め,5月前半からO157(VT2産生)の分離数が増加してきたことから分離菌株についてパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)解析等の分子疫学解析を行ったところ,この時期に分離された菌株21株中15株が同一パターンを示した。初発患者のグループが居酒屋Gを利用していたことから,「散発患者として届けられ,同じPFGEパターンを示した患者」に再度居酒屋Gの利用について問い合わせをしたところ,最終的に7グループ17名の患者が確認された(表2)。患者の中には居酒屋Gとは異なる飲食店の利用を報告していたが,居酒屋Gは2つの屋号を使用しており,最終的には同じ居酒屋であると確認された事例もあった。またネットワークシステムを通じて関東地域の地方衛生研究所へPFGEパターン等の情報を発信したところ,他自治体在住者の中にも患者がいたことが判明した。
患者の喫食日は5月6日~11日の6日間に渡っており,共通のメニューは無く,直接の原因食品を特定することはできなかった。しかし,居酒屋Gでは生の牛モツが利用されていたことから,食品への二次汚染の可能性が推察された。
本事例は東京都保菌者検索事業で収集した患者情報と菌株の疫学解析によって共通利用施設が判明した事例であった。また,居酒屋でEHECによる食中毒が発生したという点も本事例の特記すべき事項である。
2. もつ焼き店で発生したEHEC O157による食中毒事例
6月~7月に発症し,散発患者として届けられた患者5名を調査した結果,もつ焼きのチェーン店(T店とI店)で喫食していることが確認された(表3)。検出されたEHECの血清型は全てO157:H7(VT1+VT2産生)であった。もつ焼き店では,野菜以外の内臓肉等を全てI店で仕入れ,仕込み後,T店へ運搬していた。原因経路を調査するため各店舗の食品,拭き取り等の検査を実施した。その結果,T店から収去した牛小腸からO157:H7(VT1+VT2産生)が検出され,更にI店から収去した牛ハラミ(横隔膜)からO157:H7(VT1+VT2産生)およびO157:H7(VT2産生)が検出された。これら分離株についてPFGE解析を行った結果,T店で喫食した患者(A,B,C)とI店から収去したハラミ由来株のパターンが一致した(写真1)。I店で喫食した患者(D,E)のPFGEパターンは異なっていたが,喫食日も1か月近く離れていた。これらのことからT店で喫食した患者は食中毒と断定された。
2011年に生食用食肉(牛肉)の規格基準の設定,2012年に生の牛肝臓の提供禁止が食品衛生法で定められて以降,ユッケや牛レバ刺しを原因と推定された食中毒事例は減少した。しかし,ユッケ・レバ刺し以外の内臓肉の喫食によると推定される食中毒事例は増加していることから,これらの対策も更に必要である。
微生物部 食品微生物研究科(食中毒研究室,腸内細菌研究室)