溶血性レンサ球菌感染症は,小児における咽頭炎や皮膚疾患の起因菌として日常的にみられる疾患である。中でもA群溶血性レンサ球菌による咽頭炎は,感染症法で五類定点把握疾患に指定されている。一方,1980年代に入り欧米で,筋膜などの軟部組織の壊死性炎症を伴い急速に全身状態が悪化してショックや多臓器不全を起こす,致死率の高い重篤な溶血性レンサ球菌感染症が相次いで報告されるようになった1)。この疾患は,1980年代後半以降,劇症型溶血性レンサ球菌感染症(以下劇症型と略)と呼ばれ,わが国においても,1992年に初の劇症型症例が報告され2),現在,感染症法においては五類感染症の全数把握対象疾患に指定されている。
東京都における劇症型の届出数は,2010年頃までは年間10から20例程度であった。しかし,2011年以降20例を超す届出がみられ,本年(2015年)についても32週目にはすでに43例の届出があった。この傾向は,全国の届出数の推移にも同様の傾向として表れている(図1)。
東京都では感染症発生動向調査事業の積極的疫学調査として,劇症型患者から分離されたレンサ球菌について菌株を確保し疫学解析を実施している。2010年から2014年に確保した劇症型の菌株について 表1 に示した。2013年までの搬入数は年間9株から19株であったが,2014年には30株が搬入された。
Lancefield分類による群別で5年間で最も多かったのはA群(56株)であり,次いでG群(21株),B群(9株)及び群別不能(1株)の順であった。A群レンサ球菌56株中54株はStreptococcus pyogenes であり,そのT血清型は1型(16株:30%),B3264型(9株:17%),12型 (6株:11%) 等が多くみられた(表2)。一方,2010年から2014年に東京都内医療機関(病原体定点)の咽頭炎患者から分離された S.pyogenes 354株についてT血清型別を実施した結果,劇症型で多くみられた型のほかに4型や28型なども多くみられた(表3)。
1992〜2001年までの10年間の調査3)では,38都道府県の医療機関で劇症型患者として250症例が報告された。そのうち234株は S.pyogenes で,T血清型は1型(36.8%) と3型(17.5%) の2種の型が多くを占めていた。今回の調査結果でも1型が多い傾向は変わらないが3型は2010年と2014年に1株ずつ認められただけであり,代わりにB3264型が多くみられた。
劇症型と咽頭炎の由来別の関連性をみると、1994年の劇症型患者から分離された S.pyogenes のT型は主として3型であり,この型は同年に咽頭炎等でも全国的に流行した3) 。今回の調査で劇症型患者から二番目に多く分離されたB3264型は,2011年までみられなかったが,2012年に1株,2014年には21株中4株(19%)となった。また,咽頭炎由来株においても2010年の3株から徐々に増加傾向を示し,2014年には75株中16株(21%)であった。
現在のところ劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発症機序や2014年からの増加の原因は不明であるが,咽頭炎等の流行菌型が劇症型由来株の菌型と関係していることも考えられる。劇症型の作用機序や患者数増加の原因究明のためにも,引き続き咽頭炎及び劇症型由来株の型別等の流行を把握・監視して行くことが重要と考えている。
<参考文献>
1) Cone LA, et al., The New Eng. J Med 1987;317:146-149.
2)清水可方,他, 感染症誌1993;67:236-9.
3)奥野ルミ,他,感染症誌2004;78:10-17.
(病原細菌研究科臨床細菌・動物由来感染症研究室 奥野ルミ)