肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)はグラム陽性の球菌で、肺炎、中耳炎、菌血症、細菌性髄膜炎等の原因菌として知られ、特に高齢者では市中肺炎の原因菌としても重要である。
肺炎球菌感染症のうち本菌が血液又は髄液から検出された場合は、侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease; IPD)とされ、2013年4月1日より5類全数把握疾患に指定されている。IPD報告数は2013年以降年々増加傾向にあり、患者年齢別では小児と高齢者に多い(図1、図2)。
肺炎球菌は病原因子の一つである莢膜の抗原性の違いにより93種以上の血清型に分類されている。重篤化を予防するために複数の血清型を含むワクチンが用意されており(図3)、2010年2月から小児を対象に7価肺炎球菌結合型ワクチン(Pneumococcal Conjugate Vaccine 7:血清型4、6B、9V、14、18C、19F、23Fを含む)が導入、2011年2月からは公費助成が開始、2013年4月から5歳未満の小児を対象に定期接種化された。さらに2013年11月から13価の肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13:PCV7に加え1、3、5、6A、7F、19Aを含む)への切替えが実施された。一方、高齢者に対しては、2014年10月から23価ポリサッカライド肺炎球菌ワクチン(Pneumococcal Polysaccharide Vaccine 23: PCV13から6Aを除き、2、8、9N、10A、11A、12F、15B、17F、20、22F、33Fを含む)の定期接種が開始された。
東京都では2013年10月より小児由来菌株を中心に、2015年10月より全年齢を対象としてIPDから分離された肺炎球菌の収集し、血清型別、薬剤感受性等の解析を行っている。
2013年から2015年までに当センターに搬入された菌株は126株(小児103株、成人23株)で、2013年は14株(小児14株)、2014年が42株(小児34株、成人8株)、2015年は70株(小児55株、成人15株)であった。
肺炎球菌の血清型別は型別用抗血清を用いた莢膜膨化法で実施した。その結果、菌株の血清型は多い順から24F、15A、19A、12F、3、10A、35Bであった。その中で各ワクチンに含まれる血清型の割合をみると、PCV7に含まれる血清型は5株(小児2株、成人3株)でPCV7カバー率は4%(5/126株)、PCV13に含まれる血清型は37株(小児24株、成人13株)でPCV13カバー率は29%(37/126株)、PPSV23に含まれる血清型は65株(小児46株、成人19株)でPPSV23カバー率は52%(65/126)であった。非ワクチン型では24F、15Aが多くを占め、その他、6C、7C、15C、23A、24A、24B、34、35B、38等が認められた(図4)。
菌株のペニシリン感受性試験は濃度勾配ストリップ(Etest)を用いて実施した。最小発育阻止濃度(MIC値)が0.06μg/mL以下を感受性、0.12μg/mL以上を耐性、その間の値を中間とすると、感受性は72株、中間は18株、耐性は36株であった。
IPDから分離される肺炎球菌の血清型はワクチン導入の前後で大きく変化しており、ワクチン導入後はワクチン含有の血清型が減少し、非ワクチン血清型の増加が認められているとの報告がある1)。
本調査で多く検出された血清型(24Fや15A等)は非ワクチン型であることや、中間を含めたペニシリン非感受性株は43%(54/126株)であることから、今後も引き続き血清型やペニシリン感受性の動向を注視していく必要があると考える。
(病原細菌研究科 臨床細菌・動物由来感染症研究室 内谷友美)
参考文献
1) 常 彬、大西 真、庵原俊昭、小児侵襲性感染症由来肺炎球菌の細菌学的解析から見た肺炎球菌結合型ワクチンPCV7の効果(病原微生物検出情報、34、64-66、2013)