病原体レファレンス事業は、都内で発生する感染症の病原体を積極的に収集し、病原体の性状や遺伝子を比較・解析することにより、流行型の血清型、薬剤耐性および遺伝子変異等を把握し監視していくことを目的としている。本事業は医療機関等の協力により、主として感染症法では収集体制が確保されていない病原体(カンピロバクター、大腸菌、エルシニア等)を収集対象としている。
平成26年度に都立病院および都保健医療公社病院から送付された病原体(菌株)は674株であり(表1)、各病原体の種類・解析結果は、以下のとおりである。
1.カンピロバクター
カンピロバクター属菌として送付された菌株は137株で(表1)、その内訳はCampylobacter jejuni 125株(91.2%)、C. coli 7株(5.1%)、C. fetus 3株(2.2%)、Helicobacter cinaedi 1株(0.7%)およびCampylobacter sp. 1株(0.7%)であった。C. jejuni 1株、C.fetus 1株およびH. cinaediは血液由来、C. fetus 1株は腹腔内膿由来、C. jejuni 1株は腸液由来、その他132株(96.4%)は糞便由来であった。
血清型別はC. jejuni を対象としてLior法(易熱性抗原を用いた型別法)により行った。血清型は型別不能の31株を除き24種類に型別された(型別率 75.2%)。検出頻度の高い血清型は、LIO 4: 22株(17.6%)、TCK1: 12株(9.6%)、LIO 7: 10株(8.0%)であった(表2)。
2.大腸菌
下痢症患者由来の大腸菌は336株搬入された。毒素原生大腸菌(ETEC)は18株(5.4%)であり、血清型別試験の結果、10種類に分類された(表3)。最も多く検出されたのはO27(4株)で、次いでO159(3株)、O15、O148およびO169(各2株)であった。ETECが検出された患者は1例を除いて海外渡航歴が認められ、推定感染地域はインド、インドネシア、タイが多かった。
3.サルモネラ
サルモネラは26株搬入され、15種類の血清型に分類された。最も多い血清型はO4群Chester(5株)、次いでO4群i:-(3株)、O4群Typhimurium(2株)であった(表4)。サルモネラが検出された患者の多くで海外渡航歴は認められず、海外での感染が推定されたのはO4群ParatyphiBおよびO4群Typhimurium(台湾)、O4群b:-(インドネシア)、O9群Javiana(フィリピン)であった。
搬入された26株についてアンピシリン(ABPC)、セフォタキシム(CTX)、ゲンタマイシン(GM)、カナマイシン(KM)、ストレプトマイシン(SM)、テトラサイクリン(TC)、クロラムフェニコール(CP)、ST合剤(ST)、ナリジクス酸(NA)、シプロフロキサシン(CPFX)、ノルフロキサシン(NFLX)、オフロキサシン(OFLX)、ホスホマイシン(FOM)、スルフイソキサゾール(Su)を用いた薬剤感受性試験を実施した。その結果、いずれか1剤以上に耐性を示した株は11株(42.3%)であった(表5)。
4.エルシニア
Yersinia enterocoliticaは12株搬入された(表1)。血清型はO3群が6株、O8群が5株、O9群が1株であった。推定感染地域は、国内が6株、不明は6株であった。
5.レンサ球菌
レンサ球菌は50株搬入され、その内訳はA群が23株、B群が11株、G群が4株、肺炎球菌が12株であった。A群レンサ球菌のうち22株はStreptococcus pyogenesであり、1株はS.constellatus であった。
S.pyogenes 22株のT血清型は1型が最も多く(6株)、12型(4株)、28型、B3264型(各3株)、3型(2株)、4型、25型(各1株)であり、発熱性毒素産生性ではB産生株(8株)、B+C産生株(7株)、A+B産生株(6株)、C産生株(1株)であった。
B群レンサ球菌 (S.agalactiae )11株の血清型は、Ia型(1株)、Ⅰb型(2株)、Ⅲ型(5株)、Ⅴ型(2株)であり、G群レンサ球菌(4株)は、全てS.dysgalactiae subsp. equisimilisであった。
肺炎球菌は、血液又は髄液から分離された侵襲性肺炎球菌感染症患者由来(12株)であり、血清型は、3、12F、19Aがそれぞれ2株、6B、6C、7F、22F、23A、35B型がそれぞれ1株であった。
ペニシリン(PCG)に対する薬剤感受性試験の結果、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)2株、ペニシリン感受性肺炎球菌(PSSP)が6株、PRSPとPSSPの中間の値であった株が4株であった。
6.黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌は90株搬入され、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は36株、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)は54株であった(表6)。
MRSAのコアグラーゼ型はⅢ型が最も多く(19株)、次いでⅦ型(8株)であった。毒素産生株はSEC+TSST-1産生株が最も多く9株であり、そのうち7株がコアグラーゼⅢ型であった。SEA産生株は8株あり、すべてコアグラーゼⅦ型であった。また、表皮剥脱毒素(EXT)Bを産生していた3株は、すべてコアグラーゼⅠ型であった。
メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)については、54株中コアグラーゼⅤ型は14株、Ⅳ型が12株、Ⅶ型が10株であった。毒素産生株はSEA+TSST-1産生株が9株と最も多く、そのうち8株はコアグラーゼⅣ型であった。
7.髄膜炎菌
髄膜炎菌は5株搬入され(表1)、髄膜炎菌のPCR法による血清型別の結果はB群が1株、W135群が3株、型別不能が1株であった。
8.その他
百日咳菌3株、NAGビブリオ2株、プレジオモナス2株、赤痢菌およびセレウス菌(嘔吐毒陰性)が各1株、同定検査依頼が9株搬入された。
微生物部 食品微生物研究科
病原細菌研究科
表1.対象病原体(平成26年4月~27年3月)
表2.散発患者由来 C. jejuni の血清型 (Lior法)
表3.検出された毒素原生大腸菌(ETEC)
表4.サルモネラの血清型
表5.薬剤耐性を示したサルモネラの血清型と薬剤耐性パターン
表6.黄色ブドウ球菌のコアグラーゼ型と毒素産生性