東京都健康安全研究センター
東京都における流行性耳下腺炎の流行状況について(2015-2016年)

1.はじめに

 流行性耳下腺炎(以下ムンプス)は、耳下腺の発熱、腫脹を主な症状とし、その特徴的な病型から「おたふくかぜ」とも呼ばれている。その原因となるムンプスウイルスはパラミクソウイルス科に属し、マイナス1本鎖RNAゲノム、エンベロープを持つウイルスである。

 国内でのムンプスの流行は、1993年にMMR(麻しん、ムンプス、風しん3種混合)ワクチンの副反応による無菌性髄膜炎の発生が問題化し、ムンプスワクチンの定期接種が中止され任意接種となって以降、4~5年ごとに繰り返されている1) 。東京都では、図1に示す通り2009~2010年に大きな流行が発生し、その5年後になる2015~2016年にも流行が認められ、現在も継続している。そこで今回は、当センターで実施したムンプスウイルスの検査結果と検出されたウイルスの遺伝子解析結果について報告する。

 

2.患者発生状況

 ムンプスは、感染症法に基づく5類感染症定点把握疾患であり、現在、都内では264か所の小児科定点医療機関から週単位で患者数が報告されている。2015年からの都内におけるムンプスの定点当たり患者報告数は、2015年の第40週(9月28日~10月4日)に0.56人と第39週の0.3人に比べ倍近い増加が見られ、その後も増加傾向が続いたが、翌年2016年第1週(1月4~1月10日)の0.79人をピークに減少に転じた。しかし、第17週(4月25日~5月1日)から再び増加し始め、第30週(7月25日~7月31日)の0.99人ピークをとし、10月末においても高い水準を維持している。

 

3.ウイルス検出状況 

 感染症発生動向調査事業において、2015年1月から2016年10月末までに都内の小児科病原体定点医療機関から搬入されたムンプス患者の咽頭拭い液155検体を対象にウイルス検査(RT-PCR法による遺伝子検出ならびにVeroFV細胞を用いたウイルス分離)を行った。

 その結果、94検体(60.6%)からムンプスウイルス遺伝子が検出され、55検体(35.5%)からムンプスウイルスが分離された。

 月別のムンプスウイルス遺伝子検出数を図2に示す。2015年には8月から12月にかけて1~5例/ 月の検出が見られたが、2016年には4~12例/ 月に増加し、6月をピークとする検出は10月においても継続している。

 ムンプスウイルス陽性者の平均年齢は6.9歳(0歳~33歳)、性別では男性56人(59.6%)、女性33人(35.1%)、不明5人(5.3%)人であり、男性陽性者は女性陽性者の約1.7倍であった。また、男性陽性者の平均年齢は6.1歳であったのに対し、女性陽性者の平均年齢は8.2歳と2歳以上高かった。男性陽性者の発生は2歳から増加し10歳過ぎまで継続的にあるのに対し、女性では0-2歳、10-12歳は陽性がなく、3歳から9歳までと12歳以降で陽性が見られた。なお、男女ともに、最も陽性者数の多く見られたのは7歳であった(図3)。

 

4.遺伝子解析

 RT-PCR法による遺伝子検査で陽性となった検体を材料とし、都内流行ウイルスの遺伝子解析を試みた。ムンプスウイルスは、WHOにより提唱された分類法によりsmall hydrophobic(SH)領域の塩基配列(316塩基)を基に、AからNまでの12群に分類されている(EとMは欠番)2) 。日本では2000年以降G型の流行が継続しているが3) 、G型には主に西日本で流行が見られるGwと首都圏を含む東日本で流行するGeの2つの系統があり、これらの流行域は流動的で年により入れ替わる場合がある3)。

 2016年に東京都内で検出されたムンプスウイルスの遺伝子型を解析した結果、全てG型であり、Gw 27例(87.1%)、Ge 4例(12.9%)であった。また、分子系統樹においてはGeは単一群を形成したがGwは3つの群に分かれていた(図4)。

 

5.おわりに

 全国のムンプスワクチン接種率は、感染症流行予測調査事業における回答から 40%以下であることが報告されている4) 。近年の東京都におけるムンプスの流行は、定期接種中止後の全国での流行と同様に数年周期で繰り返されている。2016年は全国的にムンプスの流行が見られ5,6)、都内でもムンプスウイルスの検出が増加しているが、今回、都内で流行している株を解析した結果、流行株はG型(Gw及びGe)であることが判明した。また、分子系統樹解析において検出された株に遺伝的な多型が認められた。このことから、人や物の動きが激しく人口が密集している東京都内において、各地から様々な遺伝子型のウイルスが侵入し、感染が拡大しているものと推察される。

 今回検出されたウイルスは、全て国内での発生が続いているGeとGwに分類されたが、沖縄県では海外から持ち込まれた可能性が示唆された株(Ghk)も検出されており7)、今後もムンプスウイルスの動向を注意深く見守っていく必要があると考えられる。

 

1) IASR Vol. 34 p. 219-220: 2013
2) WHO, WER 87: 217-224, 2012
3) IASR Vol. 34 p. 224-225: 2013
4) IASR Vol. 37 p.198-199: 2016
5) IASR Vol. 37 p.192-194: 2016
6) IASR Vol. 37 p.188-189: 2016

(ウイルス研究科  長谷川 道弥)

 

図1. 東京都の定点あたりムンプス発生届の経年推移

(東京都感染症情報センターHPより)

 

図2. 2015-2016年の月別ムンプスウイルス検出数

 

図3. 年齢別ムンプスウイルス陽性患者数(2015-2016年)

 

 

図4. ムンプスウイルスのSH領域(316塩基)の系統樹

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