1.はじめに
2014年から2015年の2年間に東京都健康安全研究センター並びに都・区検査機関、都内の病院、登録衛生検査所等で分離されたサルモネラを対象に、血清型および薬剤感受性試験成績についてまとめたのでその概略を紹介する。また、チフス菌およびパラチフスA菌については、国立感染症研究所に依頼したファージ型別の成績も併せて紹介する。
供試菌株は、都内の患者とその関係者および保菌者検索事業によって分離されたチフス菌37株(海外由来:20、国内由来:17)、パラチフスA菌15株(海外:14、国内:1)およびその他のサルモネラ408株(海外:3株、国内:405株)である。血清型別試験は、常法によりO群およびH抗原について行った。薬剤感受性試験は「東京都において分離された赤痢菌の菌種、血清型および薬剤感受性について(2014~2015年)」(36巻第7号)に記載した方法(CLSI法)に基づいて行った1)。
2.チフス菌およびパラチフスA菌
薬剤耐性菌出現頻度および薬剤耐性パターンを表1に示した。チフス菌では、海外由来20株のうち17株は供試した薬剤のうちいずれかに耐性を示し、特にインドおよびネパールからの帰国者から分離された1株はTC・SM・ST・NA・NFLXの5剤に耐性を示した。その他、TC・SM・ST・NA の4剤耐性が1株(インド)、CP・SM・ABPC・STの4剤耐性が1株(モザンビーク)、NA・NFLXの2剤耐性が4株(インド)、SM単剤耐性が2株(フィリピン)、NA単剤耐性が8株(バングラデシュ:2、ミャンマー:2、インド:1、マレーシア:1、東南アジア複数国:2)であった。供試薬剤全てに感受性の株は3株(インドネシア:2、東南アジア複数国:1)であった。国内由来17株では15株が耐性を示し、このうちNA単剤耐性株が14株で82.4%を占めた。その他NA・NFLXの2剤耐性が1株、供試薬剤全てに感受性の株が2株であった。チフス菌37株のうち、36株についてファージ型別を実施した。海外由来株20株の内訳は、E1型が5株、28型、UVS(Untypable Vi strain)1型、UVS4型が各3株、A型、B1 型が各2株で、D2型、E9型が各1株と多彩であった。国内由来16株はUVS1型が13株(81.3%)、E1型、M1型およびUVS4型が各1株であった。
パラチフスA菌15株中14株は海外由来株で、耐性株は12株であった。このうち6株はNA・FOMの2剤耐性株(ミャンマー:5、アジア複数国:1)で、4株はNA単剤に耐性を示した(ミャンマー:2、インドおよび東南アジア複数国:各1)。その他、TC・ABPC・NA・FOMの4剤耐性(ネパール)およびNA・FOM・NFLXの3剤耐性(ミャンマー)が各1株であった。ファージ型別の結果をみると、1型が12株、2型およびUT(Untypable)が各1株であった。国内由来1株の薬剤耐性パターンはNA・FOMの2剤耐性で、ファージ型は1型であった。
NA耐性を示したチフス菌およびパラチフスA菌42株について、フルオロキノロン系薬剤に対するMICを測定しCPFXを基準として判定した。チフス菌は6株が耐性、23株が中間を示した。パラチフスA菌13株は、5株が耐性、8株が中間を示した(表2)。
腸チフスおよびパラチフスは、通常、発展途上国をはじめとした海外へ旅行した際に感染する、いわゆる輸入例が大半であり、国内感染例は稀である。しかし、2014年には海外渡航歴のない腸チフスの届出数が15例(55.6%)と急増した。このうち、12例と、ネパールへの渡航歴のある1例は、同一の飲食店で提供した食事を原因としたチフス菌による集団食中毒によるものであった2)。当センターに搬入された当該食中毒事例関連株12株の薬剤耐性パターンは全てNA単剤耐性で、ファージ型はUVS1型が11株、UVS4型が1株であった。
3.チフス菌・パラチフスA菌以外のサルモネラ
供試した408株の血清型および耐性菌の出現頻度を表3に示した。主なO群は、O4群173株(42.4%)、O7群96株(23.5%)、O8群67株(16.4%)、O9群42株(10.3%)で、これらで全体の92.6%を占めた。検出頻度の高い血清型は、S. Schwarzengrund (O4群,42株)、S. Enteritidis(O9群,39株)、S. Infantis(O7群,36株)、S. Chester(O4群,29株)、Salmonella(O4: i :-,25株)、S. Typhimurium(O4群,22株)およびS. Thompson(O7群,22株)であった。
サルモネラ408株中148株(36.3%)は薬剤耐性株で、2013年(34.3%)と同程度の耐性頻度であった1) 。各薬剤に対する耐性率はTC(28.4%)、SM(27.2%)、KM(14.2%)、ABPC(12.3%)、NA(6.1%)、ST (4.4%)、CP (2.9%)で、2013年とほぼ同様の傾向であった。さらに、2015年にはCTX耐性株が4株(1.0%)検出され、これらは全てESBL産生菌であることが確認された。ESBL産生菌の血清型はO8群Blockley(3株)、O4群Schwarzengrund(1株)であった。なお、FOMおよびNFLXに対する耐性株は認められなかった。
薬剤耐性パターンは26種類でTC・SM(35株)、TC・SM・KM(18株)、およびTC・SM・ABPC(18株)が主要なものであった。O群別の耐性頻度ではO4群(53.8%)、O8群(32.8%)、O7群(24.0%)が高かった。検出頻度の高い上述7血清型のうち最も耐性率の高かった血清型はS. Schwarzengrundで、耐性率は92.9%であった。S. Schwarzengrundの主な耐性パターンはTC・SM・KM(13株)、KM単剤耐性(7株)、CP・TC・SM・KM・ABPC・ST・NA(6株)およびTC・SM(5株)であった。NA耐性を示したサルモネラ25株中20株について、フルオロキノロン系薬剤に対するMICを測定しCPFXを基準として判定した結果、全ての株が中間を示した(0.125-0.5μg/ml)。その他のフルオロキノロン系薬剤に対するMICはLVFX:0.25-1μg/ml(中間;19株)および2μg/ml (耐性;1株)、OFLX:0.5-1.0μg/ml(中間;7株)および2-4μg/ml(耐性;13株)、NFLX:0.5-2.0μg/ml(感受性;20株)であった。
なお、ここ数年、CLSIドキュメントにおいてフルオロキノロン系薬剤に関するブレイクポイント等、判定基準の再評価が続いており、今後も基準の変更等が頻繁に行われる可能性がある。このような状況も考慮しながら、引き続きこれら耐性菌の動向を注意深く監視する必要がある。
1) 東京都微生物検査情報, 36(7):1-3, 2015.
2) IASR Vol.36 p.162-163, 2015.
(食品微生物研究科 河村真保)