平成27年に全国および東京都内で発生した食中毒事件の概要と特徴について、厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部並びに東京都福祉保健局健康安全部の資料に基づいて紹介する。
1.全国における食中毒発生状況
食中毒事件総数は1,202件、患者数は22,718名(死亡者6名)であり、事件数は前年比1.23、患者数は前年比1.17であった。事件数は平成25年、26年と2年連続で1,000件を下回っていたが、平成27年は再び増加し1,200件を上回った。
事件数を原因物質別に見ると、細菌性食中毒は431件(35.9%)、前年比0.98でやや減少した。原因菌別の第1位は平成15年以降13年連続でカンピロバクター318件(26.5%)、以下、黄色ブドウ球菌33件(2.7%)、サルモネラ24件(2.3%)、ウエルシュ菌21件(1.7%)、腸管出血性大腸菌17件(1.4%)、セレウス菌6件(0.5%)、腸管出血性大腸菌以外の大腸菌6件(0.5%)、腸炎ビブリオ3件(0.2%)、その他の細菌が3件(0.2%)であった。
細菌性食中毒の患者数は6,029名(26.5%)、前年比0.84でやや減少した。患者数の多い原因菌は、カンピロバクター2,089名、次いでサルモネラ1,918名であった。1事件あたり患者数500名以上の大規模食中毒は12月に1件発生しており、愛知県の仕出し屋で製造された弁当を原因とするサルモネラによるもので、患者数は保育園児・幼稚園児および職員を含む576名であった。検食のマカロニソテー(合びき肉やタマネギ等と炒めたもの)からも患者と同じサルモネラ(S. Typhimurium)が検出され、発生要因は合びき肉の加熱が不十分であった可能性が考えられた。
一方、ノロウイルスによる食中毒は事件数481件(40.0%)、患者数14,876名(65.5%)と最も多かった。前年比は事件数1.64、患者数1.42と増加した。1事件あたり患者数500名以上の大規模食中毒は1件発生し、愛知県で3月に発生した弁当を原因とした患者1,267名の事件であった。
平成25年より食中毒病因物質の種別に追加されたアニサキスは127件、クドア・セプテンプンクタータは17件であった。化学物質による食中毒は14件、植物性自然毒は58件、動物性自然毒は38件であった。その他の1件はコルヒチン(アルカロイドの一種)を病因物質とする患者2名の事例であった。
食中毒による死亡者は6名であったが、うち2名は前述のコルヒチンによるもの、2名は植物性自然毒(イヌサフラン)、2名は動物性自然毒(フグ、アオブダイ)によるものであった。これらはすべて高齢者の誤食が原因と考えられ、厚生労働省から各都道府県等へ、一般への注意喚起情報、高齢者施設を通じる等効果的な広報を提供するよう通知が出された。(生食監発0401第1号)
2.東京都における食中毒発生状況
都内の食中毒発生状況は、事件数149件(患者数2,258名)であり、平成26年の事件数103件(患者数1,096名)と比べ、事件数は1.45、患者数は2.06に増加した。食中毒149件中、細菌によるものは68件(45.6%)であった。原因菌ではカンピロバクターが最も多く48件(32.2%)、以下、サルモネラ7件(4.7%)、腸管出血性大腸菌5件(3.4%)、黄色ブドウ球菌4件(2.7%)、ウエルシュ菌2件(1.3%)、セレウス菌2件(1.3%)、腸炎ビブリオ1件(0.7%)であった。細菌性食中毒の患者数は519名(23.0%)、前年比1.46で増加した。患者数では、カンピロバクター273名、次いでサルモネラ110名、ウエルシュ菌63名で、患者数100名以上の大規模な事件はなかった。
ノロウイルスによる食中毒は、事件数56件(37.4%)、患者数1,576名(69.8%)と共に最も多く、前年比はそれぞれ2.54および2.62で、事件数、患者数ともに前年より2倍以上増加した。平成26年は患者数100名以上の大規模な事件はなかったが、平成27年はノロウイルスによるものが3件あり、発生月は2月に2件、10月に1件で患者数はそれぞれ321名、105名、103名で、原因食品はいずれも飲食店が提供した弁当や食事であった。
アニサキスによる食中毒は13件発生し、生鮮魚介類を原因とするものが多かった。クドアによる食中毒は1件発生し、ヒラメの握り寿司を喫食していた。
化学物質による食中毒は6件でヒスタミンによるものが5件、塩素によるものが1件であった。塩素による事例は患者数5名で、飲食店で塩素が混入した水(有効塩素510㎎/L)を提供したことにより発生した。植物性自然毒による食中毒は1件で、バイケイソウ類によるものであった。
また、原因物質不明の食中毒は4件(患者数88名)あり、すべて飲食店で提供された食事が原因で発生した。うち3件はカンパチのお造りを喫食しており、検体の一部から粘液胞子虫の遺伝子が検出されたが、ヒトに対する病原性が明らかでないことから原因物質の特定には至らなかった。
微生物部食品微生物研究科 尾畑浩魅
表 平成27年の食中毒発生状況
1)1事件(患者数2名)はサルモネラおよびカンピロバクターとの混合感染(重掲)