平成26年9月の感染症法改正に伴い、「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症」が5類全数把握疾患として指定された。この改正に合わせ、東京都健康安全研究センター(以後、当センター)では平成27年10月から積極的疫学調査事業としてCREについて菌株確保の事業を開始した。本事業では、Enterobacter 属(E. cloacae、E. aerogenes 等)ついては基幹定点医療機関(25機関)のみに対して、その他の菌種についてはすべての医療機関に対して菌株確保の協力を依頼している。
平成27年10月から29年3月までの間に124株のCREが確保された(表1)。Enterobacter 属は基幹定点医療機関からのみ確保しているにもかかわらず最も多く、次いでKlebsiella pneumonia(肺炎桿菌)を含むKlebsiella 属、Escherichia coli(大腸菌)が多くを占めていた。これら確保したCRE株については、主に病原体検出マニュアル(国立感染症研究所;http://www.niid.go.jp/niid/ja/labo-manual.html)に基づいたβラクタマーゼ遺伝子の検出(PCR法)を行い、医療機関にその結果を報告している。
平成29年3月までに確保したCRE株(10菌種、124株;表1)についてβラクタマーゼ遺伝子の種類を調べた結果、IMP-1型のカルバペネマーゼ遺伝子を保有する株が特に多く検出された(表2)。また、菌種によって検出されるβラクタマーゼ遺伝子には特徴があることが判明した(表3)。これらの遺伝子保有状況について菌種ごとに比較すると、P. mirabilis(2株)やP. rettgeri(1株)のような供試株数が少ない菌種を除いた場合、E. aerogenes(19株)やS. marcescens(8株)からはβラクタマーゼ遺伝子が検出されることがほとんどなかった。この2菌種についてはβラクタム薬に対する自然耐性を示すことが知られており、βラクタマーゼ遺伝子を持っていなくとも感染症法におけるCRE感染症の届出基準(MEPM、あるいはIPMとCMZに対するMIC値、もしくは感受性ディスクの阻止円径)を満たしていたと考えられた。
一方、感染時に重症化傾向がみられる菌種とされるE. coli やK. pneumoniae では、βラクタマーゼ遺伝子が高頻度に検出された。これら2菌種においては1株から複数のβラクタマーゼ遺伝子が検出されることも多く(表4)、E. coliでは3遺伝子、K. pneumonia では4遺伝子を同時に持つ株も存在した。さらに、E.coliにおけるCTX-M-1 groupとCTX-M-9 group(4株)や、K. pneumonia におけるSHV型とIMP-1型(14株)といった、比較的同時に検出されやすい組み合わせも見られた。
腸内細菌科細菌に属する菌株の間では、各種のβラクタマーゼ遺伝子がプラスミドを介して伝達されると考えられている。このような遺伝子の伝達過程において、ひとつのプラスミド上に複数の遺伝子が含まれていた場合では、一度に多種類の遺伝子が受け渡しされ、結果として薬剤耐性を顕著に強化してしまう可能性が考えられる。このようなことから、今後も引き続きCREにおけるβラクタマーゼ遺伝子の保有状況については注視していく必要がある。
(病原細菌研究科 久保田 寛顕)
表1 積極的疫学調査で確保したCRE株(平成27年10月~平成29年3月)
表2 CREから検出されたβラクタマーゼ遺伝子(全菌種)
表3 CREから検出されたβラクタマーゼ遺伝子(菌種ごと)
表4 同時に検出されたβラクタマーゼ遺伝子の組み合わせ(E.coli、K.pneumoniae)