東京都健康安全研究センター
2016/2017シーズンの東京都におけるインフルエンザウイルス流行状況(2017年6月現在)

1.はじめに

 インフルエンザウイルスは、冬季を中心に流行する急性呼吸器疾患の原因となるウイルスの一つである。オルトミクソウイルス科に属するエンベロープ(+)で、マイナス鎖の一本鎖RNAを持つウイルスとして分類されている。インフルエンザウイルスは核タンパク質およびマトリックスタンパク質の抗原性の違いからA,B,Cの3つに分類されているが、主たる流行を起こすのはA型、B型のウイルスである。A型ウイルスはヒト以外の動物にも分布しているウイルスで抗原性の違いからHA(ヘマグルチニン)が16亜型、NA(ノイラミニダーゼ)が9亜型に分けられ、カモ等の水禽類ではHAとNAの組み合わせから理論上全144種類のウイルスが存在するとされている。

 近年、季節性インフルエンザとしてヒトの間で流行しているのはA/H3N2、A/H1N1pdm09とB型である。インフルエンザウイルスの流行シーズンは、インフルエンザの流行期を考慮し、第36週(8月末~9月初旬)から翌年の第35週を1シーズンとしている。2016/2017年シーズンのインフルエンザ流行状況として、2016年9月の第36週から2017年6月末の第26週までに搬入された検体の検査状況について報告する。

 

2.検査対象・方法

 検査対象は、主として感染症発生動向調査事業において採取されたインフルエンザ患者およびインフルエンザ様疾患患者の咽頭ぬぐい液または鼻腔ぬぐい液であり、遺伝子検査およびウイルス分離検査を行った。遺伝子検査では、まず全検体でリアルタイムPCR法による検出および型別を行った。さらに、一部の検体でRT-nested PCR法を行い、得られたインフルエンザHA遺伝子の一部断片を用いてダイレクトシーケンスにより塩基配列を決定した。得られた配列は、ワクチン株ウイルスならびに過去に流行したウイルス株の配列と比較し分子系統樹解析を行った。ウイルス分離検査では、単層培養したMDCK細胞を使用し5%CO2下で培養を行った。分離株の性状解析は、国立感染症研究所配布のインフルエンザサーベイランスキット抗血清を用いたHI試験(1.0%モルモット赤血球浮遊液を使用)により行った。

 

3.インフルエンザウイルス検出状況

 感染症発生動向調査事業において、499検体が定点医療機関から搬入された。遺伝子検査ではAH3亜型305件(61.1%)が最も多く検出され、次いでB型(Victoria系統55件、Yamagata系統56件)111件(22.2%)、AH1pdm09 7件(1.4%)の計423件(84.8%)が検出された。
 クラスターサーベイランスにより搬入された34件においても、AH3亜型29件(85.3%)が最も多く、AH1pdm09 1件(2.9%)、B型Victoria系統1件(2.9%)の計31件(91.2%)が検出された。
 ウイルス分離検査では、定点医療機関から搬入された499検体中、AH3亜型が266株(分離率53.3%)、B型(Victoria系統52株、Yamagata系統52株)104株(分離率20.8%)、AH1pdm09 6株(分離率1.2%)が分離された。また、リアルタイムPCR法の検出サイクル数(Ct値)と分離率について検討したところ、Ct値が35未満の検体では分離率は90%程度であったが、Ct値が35以上の検体では分離率は40%程度であった。

 

4.系統樹解析、分離ウイルスの抗原性状解析

 AH1pdm09の流行株は、ワクチン株(A/California/07/2009 )とは異なるクレードに属していたが(図1)、HI試験では全ての株でワクチン株と同等の反応性がみられ、抗原性に大きな変異はないと推察された。
 AH3亜型の流行株は、ワクチン株(A/Hong Kong /4801/2014)を含む大きなクレードに属していた(図2)。しかし、HI試験では90%以上の株でワクチン株との反応性の低下がみられ(ホモHI価から8倍~256倍の低下)、ワクチン株と流行株との抗原性の相違が推察された。
 B型では、Victoria系統、Yamagata系統ともにワクチン株(B/Texas/02/2013、B/Phuket/3073/2013)と同じクレードに属していた(図3)。HI試験での反応性は、Victoria系統、Yamagata系統ともに約80%の株でワクチン株と同等の反応性がみられ、残り20%の株でワクチン株との反応性の低下がみられた(ホモHI価から8倍~16倍の低下)。
 2016/2017シーズンに東京都内で検出されたインフルエンザウイルスは、AH1pdm09、AH3亜型、B型の3種類で、特にAH3亜型が多く検出された。AH3亜型とB亜型の一部の流行株は、抗原解析によりワクチン株との相違があることが推察された。2016/2017年シーズンは、例年より早い2016年11月24日に都内でのインフルエンザの流行開始が発表され、2017年5月中旬まで流行が続いた。今後もインフルエンザウイルスの流行株とワクチン株との抗原性について解析し、その動向に注視していく必要がある。

(ウイルス研究科 根岸あかね、長島真美)

 

図1.AH1pdm09インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹

 

 

図2.AH3亜型インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹

 

 

 図3.B型インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹

 

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