東京都健康安全研究センター
東京都内の医療機関で劇症型溶血性レンサ球菌感染症患者から分離されたStreptococcus pyogenes のT血清型について(2016年)

 Streptococcus pyogenes は、小児咽頭炎、化膿性皮膚感染症、中耳炎など日常的にみられる疾患や肺炎、髄膜炎、敗血症、軟部組織壊死など多彩な臨床症状を引き起こす原因菌である。感染症法では、五類定点把握疾患のA群溶血性レンサ球菌咽頭炎及び五類感染症全数把握対象疾患である劇症型溶血性レンサ球菌感染症(以下劇症型と略)の2つの疾病における原因菌として病原体サーベイランスの対象となっている。

 

 東京都における劇症型の届出数は、2015年から急増し1)、本年(2017年)も27週現在で、すでに47例の届出があり、全国の届出数の推移にも同様の増加傾向が認められた(図1)。東京都では、感染症発生動向調査事業へ協力が得られた医療機関で、劇症型患者から分離されたレンサ球菌については積極的疫学調査として菌株を確保し、疫学解析を実施している。また、病原体定点の医療機関でA群溶血性レンサ球菌感染症患者から分離されたS. pyogenes について血清型別等を実施している。

 

 2016年に菌株確保ができた劇症型患者由来株44株について表1に示した。Lancefield 分類による群別で、最も多かったのはA群(28株)であり、次いでG群(9株)、B群(6株)、群別不能(1株)の順であった。A群レンサ球菌28株中26株は、S. pyogenes であり、そのT血清型は、1型 (9株:34.6%)、B3264型 (5株:19.2%)、12型 (3株:11.5%) 等であった。

 

 一方、2016年に咽頭炎患者から分離された83株のS. pyogenes について実施したT血清型別の結果は、4型が最も多く(19株:22.9%)、次いで1型(18株:21.7%)、12型(16株:19.3%)、3型(14株:16.9%)等の順であった(表2)。 1型や12型は、劇症型由来及び咽頭炎由来で多くみられたが、 咽頭炎で最も多くみられた4型は、劇症型では1株3.8%に留まっていた。

 

 過去5年間におけるT血清型別をみると、劇症型由来株では1型(32.6%)に次いでB3264型(21.1%)、12型(11.6%)が、咽頭炎由来株では、4型(23.3%)、12型(19.2%)、1型(14.5%)B3264型(12.3%)などが多くみられていた。年次推移をみると、2013年以降、劇症型由来株では、1型に次いでB3264型の増加が、確認された(図2)。

 

 劇症型の発症機序、病態生理については未だ不明であり、近年劇症型が増加した要因についても解明されていない。今後も、型別等により流行を把握・監視して行く必要がある。

 

参考文献
1) 奥野ルミ,東京都微生物検査情報, 37, 22, 2016

(病原細菌研究科 奥野ルミ)

 

 

図1.劇症型溶血性レンサ球菌感染症発生届出数の年次推移

 

 

表1.劇症型溶血性レンサ球菌感染症患者由来株の群別及び菌種名 (2016年:東京都)

 

 

表2.劇症型及び咽頭炎由来A群レンサ球菌(S. pyogenes )T血清型別 (2016年:東京都)

 

 

図2.S. pyogenes T血清型別分離菌株数の年次推移

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