1.はじめに
インフルエンザウイルスは、冬季を中心に流行する急性呼吸器疾患の原因となるウイルスである。オルトミクソウイルス科に属し、エンベロープを持つ一本鎖RNA(-)のウイルスとして分類されている。インフルエンザウイルスは発見された順序と核タンパク質およびマトリックスタンパク質の抗原性の違いからA、B、Cの3つの型に分類されているが、ヒトに主たる流行を起こすのはA型、B型のウイルスである。A型ウイルスは元来、トリに広く分布するウイルスで、抗原性の違いからHA(ヘマグルチニン)が16亜型、NA(ノイラミニダーゼ)が9亜型に分けられ、HAとNAの組合せから理論上144種類のウイルスが存在するが、自然界のカモ等の水禽類から分離されているのは75種類である1)。
近年、季節性インフルエンザとしてヒトで流行しているのは3種類で、A/H3N2、A/H1N1pdm09とB型である。B型は、さらにYamagata系統とVictoria系統の2種類に分類される。インフルエンザウイルスの流行シーズンは、第36週(8月末~9月初旬)から翌年の第35週を1シーズンとしている。今回、2017年9月4日の第36週から2018年4月1日の第13週までに搬入された検体のインフルエンザウイルス亜型の検出状況について報告する。
2.検査対象・方法
感染症発生動向調査事業において、57カ所の東京都内定点医療機関から搬入されたインフルエンザ患者およびインフルエンザ様疾患患者から採取した咽頭ぬぐい液または鼻腔ぬぐい液を材料として、遺伝子検査およびウイルス分離検査を行った。遺伝子検査は、型別可能なリアルタイムPCR法を用いて検出を行った。さらに、一部の検体でRT-nested PCR法を行い、得られたインフルエンザHA遺伝子の一部断片を用いてダイレクトシーケンスにより塩基配列を決定した。得られた配列は、ワクチン株ウイルスならびに過去に流行したウイルス株の配列と比較し分子系統樹解析を行った。ウイルス分離検査では、単層培養したMDCK細胞を使用し5%CO2下で培養を行った。分離株の性状解析は、インフルエンザ抗原および抗血清を用いたHI試験(1.0%モルモット赤血球浮遊液を使用)により行った。
3.インフルエンザウイルス亜型の検出状況
2018年第17週(4月23日~4月29日)現在、感染症発生動向調査事業において630検体が定点医療機関から搬入された。遺伝子検査では、545件(86.5%)のインフルエンザウイルスの遺伝子が検出された。その内訳は検出数の多い順に、B型(Yamagata系統251件、Victoria系統3件)254件(40.3%)、AH3亜型 181件(28.7%)、AH1pdm09 110件(17.5%)であり、B型 Yamagata系統とAH3亜型が同時に検出された検体が3件あった。ウイルス分離検査では、630検体のうち、B型223株(Yamagata系統220株、Victoria系統3株,分離率35.4%)、AH3亜型135株(分離率21.4%)、AH1pdm09 101株(分離率16.0%)が分離された。
週ごとの遺伝子検出状況を比較すると、2017年の第36週から第52週には132件が検出され、AH1pdm09が64件(48.5%)を占めていたが、2018年の第1週から第17週に検出された413件では202件(48.9%)がB型 Yamagata系統で、検出時期により主流となる型が異なっていた(図1)。近年のインフルエンザの流行は、2015/2016年シーズンのようにA型の検出数が減少し始めた頃からB型の検出数が増える状況になることが多い2) 。しかし、今シーズンは全ての時期において、AH3亜型とAH1pdm09、B型Yamagata系統の3種類が検出された。特に、B型Yamagata系統は2017年の第36週から第52週では37.1%、2018年の第1週から第17週では48.9が検出され、シーズンを通して流行していた。
年齢別の遺伝子検出状況を比較すると、インフルエンザウイルスが検出された検体の31.6%が10歳未満、15.0%が10歳代であり、小児や若い世代での検出が約半数を占めていた(図2)。インフルエンザウイルスの亜型と年齢別の比較では、AH3亜型は20歳代での検出率が高く(図3)、B型では40歳代、50歳代での検出率が高かったが、年齢による大きな偏りは見られなかった。AH1pdm09では10歳未満の検出が約半数を占めており、子供からの検出に偏っていた。
4.インフルエンザウイルス各亜型の系統樹解析
今シーズンの流行株について系統樹解析を行った結果、AH1pdm09の流行株は今シーズンから変更になったワクチン株(A/Singapore/GP1908/2015)を含むクレードに属し(図4)、AH3亜型の流行株はワクチン株(A/Hong Kong /4801/2014)を含む大きなクレードに属していたが、さらに2つのクレードに分かれた(図5)。B型ではYamagata系統の検出が多かったが、Yamagata系統、Victoria系統ともにワクチン株(B/Phuket/3073/2013 、B/Texas/02/2013)と同じクレードに属していた(図6)。
2017/2018シーズンは全国的にインフルエンザが大流行し、第3週(1月15~21日)に全国の医療機関を受診した患者数は、1999年の統計開始以降最多の約283万人と推計された3)。東京都内でも2017年11月30日にインフルエンザの流行開始が発表され、1月下旬には患者数が急増し1月25日には流行警報が発令された4) 。今シーズンはB型 Yamagata系統、AH3亜型、AH1pdm09の3つの型がシーズンを通して検出された。また、B型の流行規模が例年になく大きく、A型との同時流行も起こったことが今シーズンのインフルエンザ大流行の特徴であると考えられた。第17週(4月23日~4月29日)現在、東京都内のインフルエンザの流行は終息し流行警報は解除されたが、インフルエンザの散発的な発生は続いており、今後もインフルエンザウイルスの検出状況に注視していく必要がある。
参考文献
1) 北海道大学大学院獣医学研究科微生物学教室ホームページ
https://www.vetmed.hokudai.ac.jp/organization/microbiol/fluresearch.html
2) 東京都福祉保健局:感染症発生動向調査事業報告書 平成28年(2016年)
3) 厚生労働省:インフルエンザの発生状況について 平成30年1月26日
4) 東京都健康安全研究センター:東京都インフルエンザ情報 第11号 平成30年1月26日
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/flu/
(ウイルス研究科 根岸あかね)
図1. 都内定点医療機関から搬入されたインフルエンザウイルス検出状況
(2017年第36週から2018年第17週)
図2.年代別のインフルエンザウイルス検出数
図3.年代別にみたインフルエンザウイルス型別の検出状況
図4.AH1pdm09インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹
図5.AH3亜型インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹
図6.B型インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹