東京都健康安全研究センター
病原体レファレンス事業に基づく病原体等の収集と解析結果(平成29年度)

 病原体レファレンス事業は、都内で発生する感染症の病原体等を積極的に収集し、病原体の性状や遺伝子を比較・解析することにより流行型の血清型や薬剤耐性、遺伝子変異等を把握し監視していくことを目的としている。

 本事業では、医療機関や保健所等の協力により主として感染症法では収集体制が確保されていない病原体の収集と、積極的疫学調査で実施した麻しん検査における陰性検体の類症鑑別診断等を実施している。

 

1.協力医療機関から収集した病原体の解析

 医療機関等の協力により、カンピロバクター、大腸菌、エルシニア、レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、髄膜炎菌等を収集している。平成29年度に都立病院及び都保健医療公社病院から送付された病原体(菌株)は、表1のとおりである。また、各病原体の種類・解析結果は以下のとおりである。

 

1)カンピロバクター
 カンピロバクター属菌として送付された菌株は132株で、その内訳はCampylobacter jejuni 123株(93.2%)、C. coli 8株(.1%)およびCampylobacter属菌 1株(0.8%)であった。C. jejuni 4株、C. coli 1株は血液由来、Campylobacter属菌1株は胆汁由来、その他129株(95.5%)は糞便由来であった。

 C. jejuni の血清型は、型別不能の92株を除き13種類に型別された( 型別率 25.2% )。検出頻度の高い血清型は、D群: 5株(4.1%)、J群: 4株(3.3%)、A群: 3株(2.4%)、F群: 3株(2.4 %)、R群: 3株(2.4 %)であった(表2)。

 

2)大腸菌

 下痢症患者由来の大腸菌は402株搬入された。このうち毒素原性大腸菌(ETEC)は27株(6.7%)であり、血清型および毒素型により11種類に分類された(表3)。最も多く検出されたO血清群はO169(6株)で、次いでO25(4株)、O6(3株)、O27およびO159(各2株)であった。ETECが検出された患者は、O169が検出された1名を除き海外渡航歴が認められた。推定感染地はインド、タイ、カンボジア等であった。

 

3)サルモネラ

 サルモネラは28株搬入され、16種類の血清型に分類された。最も多い血清型はO9群Enteritidis(7株)、次いでO4群Saintpaul(4株),O4群Typhimurium、O4群(i:-)およびO4群Chester(各2株)であった(表4)。

 海外での感染が推定されたのはO4群Typhimurium(カンボジア,ジャカルタ)、O7群Rissen(カンボジア)、O8群Kentuckey(タイ)、であった。

 搬入された株についてアンピシリン(ABPC)、セフォタキシム(CTX)、ゲンタマイシン(GM)、カナマイシン(KM)、ストレプトマイシン(SM)、テトラサイクリン(TC)、クロラムフェニコール(CP)、ST合剤(ST)、ナリジクス酸(NA)、シプロフロキサシン(CPFX)、ノルフロキサシン(NFLX)、オフロキサシン(OFLX)、ホスホマイシン(FOM)を用いた薬剤感受性試験を実施した。その結果、いずれか1剤以上に耐性を示した株は15株(53.6%)であった(表5)。

 

4)エルシニア

 Yersinia属菌は7株搬入され,全てY. enterocoliticaであった。Y. enterocoliticaの血清型はO3群が4株、O8群は2株、血清型別不能(OUT)が1株であった。推定感染地は国内が4株、不明は3株であった。

 

5)レンサ球菌

 レンサ球菌は32株搬入され、その内訳はA群が12株、B群が12株、D群が1株、G群が4株、肺炎球菌が3株であった。

 A群レンサ球菌はすべてStreptococcus pyogenesであり、そのT血清型は1型が7株、11型2株、B3264型が2株、型別不能が1株であった。発熱性毒素産生性ではB産生株7株、B+C産生株4株、A+B産生株1株であった。

 B群レンサ球菌 (S. agalactiae )12株の血清型は、Ia、:2株、Ⅲ型:2株、Ⅴ型:2株、Ⅵ型及びⅧが各1株、型別不能が4株であった。また、G群レンサ球菌4株は、全てS. dysgalactiae subsp. equisimilisであった。

 肺炎患者由来肺炎球菌3株の血清型は、11A型、19A、35Bであった。

 

6)黄色ブドウ球菌

 黄色ブドウ球菌については52株搬入され、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は32株、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)は20株であった(表6)。

 MRSAのコアグラーゼ型(コ型)はⅢ型が最も多く14株、次いでⅦ型8株等であった。毒素産生株はSEA単独産生株及びSEC+TSST-1産生株がそれぞれは8株ずつで最も多かった。SEA単独産生株すべてのコ型がⅦ型であり、SEC+TSST-1産生株8株中6株のコ型は、Ⅲ型であった。

 MSSAについては、20株のコ型はⅣ型が最も多く5株、次いでⅦ型が4株、Ⅴ型が3株等であった。毒素産生株ではSEA+TSST-1産生株が最も多く4株であった。一方、毒素非産生株では、MRSAが32株中9株(28.1%)であり、MSSAでは20株中9株(45%)であった。

 

7)髄膜炎菌
 髄膜炎菌は、5株搬入されPCR法による血清型別を実施した結果、全て型別不能であった。

 

8)その他
 ジフテリア菌の毒素検査4株、薬剤耐性遺伝子検査依頼6株、その他同定検査依頼が15株搬入された。

 

 

2.麻しんウイルス検査(積極的疫学調査)陰性例の他のウイルス検査

 平成22年12月1日から積極的疫学調査として麻しんウイルス検査を実施している。平成23年11月1日からは、本事業として麻しん陰性例を対象に類症鑑別検査(風しんウイルス、ヒトパルボウイルス、2歳以下についてはヒトヘルペスウイルス検査を追加)を実施している。

 平成29年度は、107件の麻しん陰性例について検査を行った。その結果、ヒトヘルペスウイルス6型が9検体、ヒトパルボウイルスB19が2検体から検出された。

 

                         食品微生物研究科 小西典子、赤瀬 悟

                         病原細菌研究科  奥野ルミ

                         ウイルス研究科  長谷川道弥

 

 

表1.対象病原体(平成29年4月~平成30年3月)

                          1)  腸管出血性大腸菌を除く

                          2)  劇症型溶血性レンサ球菌を除く

                          3)  感染症由来株を除く

                          4)  髄膜炎由来株を除く

 

 

表2.散発患者由来 C. jejuni の血清型 (Penner法)

                      UT:型別不能

 

 

表3.検出された毒素原性大腸菌

 

 

 

表4.サルモネラの血清型 

 

 

 

表5.薬剤耐性を示したサルモネラの血清型と薬剤耐性パターン 

 

 

表6.黄色ブドウ球菌のコアグラーゼ型と毒素産生性

          1) SE : staphylococcal enterotoxin

          2) TSST : toxic shock syndrom toxin

          3) EXT : exfoliative toxin

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