1.はじめに
手足口病は、主に乳幼児を中心として夏から秋に流行し、口腔粘膜および手や足に水疱性の発疹が現れる急性ウイルス性疾患である。従来、エンテロウイルス71型(以下EV71)とコクサッキ―ウイルスA16型(以下CA16)が主要な手足口病起因ウイルスであったが、2009年以降はヘルパンギーナの原因ウイルスの1つであったコクサッキ―ウイルスA6型(以下CA6)が多く検出されている1) 。手足口病は通常、予後良好な疾患であるが、稀に急性髄膜炎の合併症が見られ、急性脳炎を生ずることがある。なかでもEV71が原因ウイルスであった場合、中枢神経系合併症の発生率が他のウイルスより高いことが報告されている2)。
今回、2014~2017年度に東京都における感染症発生動向調査において手足口病を疑う患者より検出されたエンテロウイルスの遺伝子検出結果について報告する。
2.検査対象・方法
2014~2017年度の間に、都内定点医療機関で手足口病と診断され、発生動向調査事業により東京都健康安全研究センターに搬入された咽頭ぬぐい液、鼻汁および鼻腔ぬぐい液、髄液検体の計460件(2014年度59件、2015年度188件、2016年度75件、2017年度138件)を対象とした。エンテロウイルス遺伝子検査として5’非コード領域を増幅するRT nested-PCRを実施した。エンテロウイルス属陽性となった検体にはエンテロウイルスのカプシド蛋白VP1コード領域を利用したCODEHOP PCRによる型別検査を実施した。得られた遺伝子産物を用いたダイレクトシーケンスにより塩基配列を決定し、NCBIのBlastによる相同性検索を用いて遺伝子配列の解析を行った。
3.エンテロウイルス検出状況
検出されたエンテロウイルスを年度ごとに示した(図1)。搬入された手足口病を疑う検体460件のうち、369件(80.2%)からエンテロウイルスが検出された。このうち型別不明やシーケンス波形が片側不完全であったものは除外し、塩基配列が得られたもののみを解析に用いた(2014年度26件、2015年度138件、2016年度51件、2017年度113件)。その結果、2014年度の手足口病患者から検出されたエンテロウイルスはCA16が最多17件であった。2015年度にはCA6の検出数が91件でCA16の42件を上回り、2016年度はCA6:36件、CA16:7件、2017年度はCA6:72件、CA16:6件であった。一方EV71は2014~2016年度にはほとんど検出されなかったが、2017年度には26件と顕著に増加していた。
4.東京都における手足口病の動向と遺伝子解析
手足口病は従来、3~5日の潜伏期間ののち手・足・口に水疱性発疹が出現し、軽度の発熱が典型的な症状である。EV71による手足口病では無菌性髄膜炎や、まれに麻痺や脳炎を引き起こし重症化することが知られており、東アジア地域では現在もEV71による手足口病の断続的な流行が発生し、多数の死亡例が報告されている2),3) 。日本国内では、2000年にEV71による脳炎および中枢神経合併症(死亡例含む)が西日本を中心に複数発生し4)、2003年、2010年および2013年にも全国的な流行が見られた。都内では2017年度に26件のEV71の検出が見られたが、脳炎などの重症例の報告は確認されていない。また以前から手足口病の主要ウイルスとされていたCA16は毎年検出されるものの、減少傾向にある。
2009年以降急激に検出数が増加してきたCA6による手足口病は、発疹が四肢末端に限局せず全身に広く分布し、39度以上の発熱、治癒後の爪甲脱落症を来す非典型的な経過を辿ることが特徴とされる。本調査期間中に得られた各年度のCA6の塩基配列に、GenBankに登録されている国内各地のCA6の塩基配列を加え、分子系統樹を作成したところ、大きく2つのグループを形成したが、検出年度による偏りは見られなかった(図2)。
今後もCA6のみならず、減少傾向にあるCA16や再増加傾向にあるEV71の病原性の変化などに着目し、その動向を注視していくことが必要と考えられる。
参考文献
1) 感染症発生動向調査週報,28, 12-13, 2017
2) 国立感染症研究所,IDWR感染症の話,手足口病(2014年10月17日改訂)
3) Wang, Y., Zou, G., Xia, A., et al.: Virology Journal., 12:83, 2015
4) 吉田茂,藤本嗣人:病原微生物検出情報, 28, 342-344, 2007
(ウイルス研究科 鈴木 愛)
図1 患者から検出されたエンテロウイルス(2014~2017年度)
図2 都内で検出されたCA6のVP1領域における分子系統樹解析
(2014~2017年度、抜粋)