東京都健康安全研究センター
東京都における胃腸炎起因ウイルスの検出状況(2017年度)

 2017年度(2017年4月から2018年3月)に都内で発生した食中毒事例(有症苦情を含む)、保育園等の施設内における集団胃腸炎事例および感染症発生動向調査において、当センターに検査依頼のあった454事例の胃腸炎起因ウイルスの検出状況について報告する。対象としたウイルスは、ノロウイルス(Norovirus:NoV)、サポウイルス(Sapovirus:SaV)、A群ロタウイルス(Rotavirus group A:RVA)、アストロウイルス(Astrovirus:AstV)およびアデノウイルス(Adenovirus:AdV)である。

 

1.2017年度の概要

  当該期間の供試検体数は、臨床検体(糞便、直腸ぬぐい液、吐物:胃腸炎発症者2,095件、非発症者79件、調理従事者等1,041件)3,215件、食品検体434件、拭き取り検体432件であった。これは過去10年間で、最も少ない検査依頼数であった(2016年度は臨床検体4,770件、食品検体753件、拭き取り検体849件)。

 
 real-time PCR法を用いて対象とする胃腸炎起因ウイルスの検査を実施したところ、189事例(41.6%)、941件(44.9%)の胃腸炎発症者から胃腸炎起因ウイルスが検出された。検出されたウイルスの内訳はNoVが最も多く149事例(78.8%)を占めた。その他は、RVAが20事例(10.6%)、SaVが10事例(5.3%)、AdVが7事例(3.7%)、AstVが2事例(1.1%)、NoVとRVAの混合事例が1事例(0.5%)であった。なお、NoV以外のウイルスが検出された40事例中37事例(92.5%)は、感染症発生動向調査における小児科定点病院からの依頼検体であった。

 

 NoVが検出された食中毒事例の中で、調理従事者等の検査依頼もあった67事例については、33事例(49.3%)の調理従事者からNoVが検出された。この結果は、NoVを原因とした食中毒の半数が調理従事者等を介して発生した可能性を示唆しており、近年は同様の傾向が続いている。また、118事例のうち44事例434検体は食品の検査を実施しており、7事例10検体からNoVが検出された。陽性となった検体は、カキ(加熱用を含む)が8検体、白菜の塩漬けとキャベツの千切りがそれぞれ1検体であった。一方、47事例970検体については拭き取りの検査も実施しており、12事例23検体がNoV陽性であった。陽性となった検体は、便座やフラッシュバルブなどのトイレ周辺の拭き取り検体が最も多く、シンクや蛇口、排水口などの調理場周辺やエアコン吸気口の拭き取り検体からもNoVが検出された。以上のことから、食中毒や感染症の発生および拡大防止には、施設における一層の衛生管理・指導の必要があると考えられた。

 

2.2017年度に検出されたNoV遺伝子型

 検出されたNoVの遺伝子群別ではGIが12事例(8.1%)、GIIが132事例(88.6%)、GIとGIIがともに検出された事例が5事例(3.4%)であった。149事例の遺伝子型別を実施したところ、GII.4が最も多く55事例(36.9%)から検出され、亜型は全てSydney_2012に分類された。2016年度の主流であったGII.2は43事例(28.9%)と二番目に多く、2015年1月から3月の流行が話題となったGII.17は29事例(19.5%)から検出された(図)。

 

 当該期間に検出されたGII.4のRdRp領域の解析を行ったところ、55事例中44事例がGII.Pe、7事例がGII.P12、4事例がGII.P16 に分類された。GII.4 Sydney_2012のRdRp領域は主としてGII.Pe、GII.P4およびGII.P16が報告されており、GII.P12-GII.4 Sydney_2012は都内で初めて検出された。検出時期は、2017年12月に5事例、2018年2月に2事例から確認された。

 

 NoVは、遺伝子変異やキメラウイルスの出現によって新しい抗原性のウイルスが生成され、場合によっては大きな流行を引き起こす可能性がある。集団胃腸炎の防止のためには、今回新たに検出されたGII.P12-GII.4 Sydney_2012を含め、今後も継続的にNoV遺伝子の変異や流行株の動向について監視し、関係機関へ情報提供や注意喚起をしていく必要がある。

 

(ウイルス研究科 永野美由紀)

 

 図 2017年度に東京都で検出されたノロウイルスの遺伝子型(N=149)

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