近年、我が国における細菌性赤痢の発生状況は、年間約200~300件、東京都では30~90件程度で推移し、2017年の届け出数は、全国で141件、東京都で34件であった。今回、2017年に都・区検査機関、都内の病院、登録衛生検査所等ならびに東京都健康安全研究センターで分離された赤痢菌を対象に、菌種、血清型および薬剤感受性について概略を紹介する。
1.材料および方法
供試菌株は、都内の患者とその関係者の検便から分離された赤痢菌34株(海外旅行者由来25株、国内事例由来9株)である。血清型別は、常法により行った。薬剤感受性試験は、米国臨床検査標準化協会(CLSI:Clinical and Laboratory Standards Institute)の抗菌薬ディスク感受性試験実施基準に基づき、市販の感受性試験用ディスク(センシディスク;BD)を用いて行った。供試薬剤は、クロラムフェニコール(CP)、テトラサイクリン(TC)、ストレプトマイシン(SM)、カナマイシン(KM)、アンピシリン(ABPC)、スルファメトキサゾール・トリメトプリム合材(ST)、ナリジクス酸(NA)、ホスホマイシン(FOM)、ノルフロキサシン(NFLX)およびセフォタキシム(CTX)の10剤である。また、NA耐性株についてはEtest(ビオメリュー・ジャパン)を用いてシプロフロキサシン(CPFX)、レボフロキサシン(LVFX)、オフロキサシン(OFLX)、NFLXの4種類のフルオロキノロン系薬剤に対する最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。
2.菌種および血清型
赤痢菌は腸内細菌科に属するグラム陰性の桿菌で、ディセンテリ―、フレキシネル、ボイド、ソンネの4菌種に分けられる。血清型はディセンテリ―で12種以上、ボイドで18種が知られており、市販の血清型に該当しない未承認新血清型も報告されている。2017年に検出された赤痢菌の菌種別内訳は、フレキシネル菌5株(海外由来3株、国内由来2株)、ボイド菌1株(海外由来)、ソンネ菌28株(海外21株、国内7株)であった(表1)。ディセンテリ―菌は検出されなかった。フレキシネル菌の血清型は2a型(3株)、3a型(1株)、3b型(1株)、ボイド菌の血清型は10型であった。
3.薬剤感受性
いずれかの薬剤に耐性を示したものは32株(94.1%)で、その薬剤別耐性頻度は、ST(85.3%)、SM(73.5%)、TC(67.6%)、NA(52.9%)、NFLX(35.3%)、ABPC(23.5%)、CPおよびCTX(ともに11.8%)の順であった。KMまたはFOMに耐性の株は認められなかった。耐性株32株の薬剤耐性パターンは14種類に分かれた(表2)。
NA耐性菌はフルオロキノロン系薬剤に対して低感受性を示し、高度耐性に移行しやすいことが問題視されている。今回NA耐性を示した18株(海外16株、国内2株)について、フルオロキノロン系薬剤に対するMICを測定した結果、指標となるCPFXでは5株が低感受性(MIC:0.125~0.25 μg/ml)を示し、残る13株は耐性(CPFX:4~16 μg/ml、LVFX:4~16 μg/ml、OFLX:16~>32 μg/ml、NFLX:8~32 μg/ml)であった。CPFXに耐性を示した13株は、フレキシネル2a型(1株;メキシコ由来)、フレキシネル3a型(1株;カンボジア)およびソンネ(11株;インド3株、カンボジア2株、モルディブ2株、タジキスタン1株、アジア複数国2株、国内1株)であった。
CTX耐性はソンネ菌4株に認められた。推定感染国はインド、ウズベキスタン、ベトナム、日本国内が各1例であった。その薬剤耐性パターンはTC・SM・ABPC・ST・NA・CTXが2株(ベトナムおよび国内由来)、TC・SM・ABPC・ST・NA・NFLX・CTXが1株(アジア複数国)、SM・ABPC・NA・NFLX・CTXが1株(インド)であった。これら4株全てについてクラブラン酸によるβ-ラクタマーゼ阻害効果が認められたことから、4株ともESBL産生菌であることが確認された。PCR法により精査した結果、インドおよびアジア複数国への渡航歴のあった患者由来の2株の遺伝子型はCTX-M-1 group、ベトナム由来および国内由来株(各1株)はCTX-M-9 groupであった。
4.国内事例
国内由来株9株の菌種別内訳は、フレキシネル菌2株、ソンネ菌7株であった。このうちフレキシネル菌2株とソンネ菌2株は、患者本人の海外渡航歴はないものの、海外渡航歴のある人等からの感染が示唆される事例であった。海外との関連が認められない5事例は全てソンネ菌で、その薬剤耐性パターンはTC・SM・ABPC・ST・NA・CTX(6剤耐性)が1株、TC・SM(2剤耐性)が1株、ST単剤耐性が3株であった。これら5事例については、感染経路につながる情報は得られなかった。
細菌性赤痢は発症に必要な感染菌量も少なく、また、食品等からの菌分離が難しいこともあり、国内感染例は感染源が特定できない例が多い。特に国内事例の感染経路の解明には、迅速な患者情報(性別、年齢、喫食歴、海外渡航歴の有無等)の収集とともに、菌株情報(血清型、薬剤耐性パターン、遺伝子解析結果等)が重要である。今後も赤痢菌の菌種、血清型および薬剤耐性の動向を注意深く監視する必要がある。
(食品微生物研究科 河村真保)
表1. 赤痢菌の菌種・血清型別内訳(2017年:東京)
( ):海外再掲
表2. 赤痢菌の薬剤耐性パターン (2017年:東京)
供試薬剤:CP・TC・SM・KM・ABPC・ST・NA・FOM・NFLX・CTX