1.はじめに
2017年の全国における食中毒発生件数は1,014件で、そのうち細菌性食中毒は449件(44.3%)であった。原因物質別では、カンピロバクターが320件、次いでサルモネラが35件、ウエルシュ菌が27件の順であった1)。これら上位を占める食中毒はいずれも食肉や鶏卵に関連する場合が多く、畜水産食品の適切なリスク管理が求められている。そのため、市場流通する畜水産食品を対象とした汚染実態調査は、食中毒の未然防止の観点から重要となる。本稿では、2017年度に実施した都内流通畜水産食品の食中毒菌検出状況について概説する。
2.検査対象食品及び方法
検査対象は、2017年度において東京都健康安全研究センターに搬入された食品748件である。内訳は、食肉271件(牛肉38件、豚肉75件、鶏肉67件、猪肉30件、羊肉2件、その他の食肉59件)、魚介類80件、鶏卵21件、液卵2件、はちみつ16件、食肉製品104件、魚介類加工品28件、魚肉練り製品70件、冷凍食品47件、そうざい7件、牛乳(低温殺菌牛乳)7件、チーズ32件、その他の乳製品63件である。
検査項目は、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌(O157、O26、O103、O111、O121、O145)、カンピロバクター(カンピロバクター・ジェジュニ/コリ)、ウエルシュ菌、セレウス菌、リステリア(リステリア・モノサイトゲネス)、病原エルシニア(エルシニア・エンテロコリチカ/シュードツベルクローシス)、その他のビブリオ(コレラ菌、ナグビブリオ、ビブリオ・ミミカス、ビブリオ・フルビアリス/ファーニシィ)、エロモナス、プレジオモナス、ボツリヌス菌である。このうち、各食品に応じて危害要因となりうる項目について公定法、厚労省通知及び食品衛生検査指針等に準じて検査した。
3.食中毒菌検出状況
1) 食肉
鶏肉24/67件(35.8%)からサルモネラ、11/64件(17.2%)から黄色ブドウ球菌、27/67件(40.3%)からカンピロバクター、24/65件(36.9%)からウエルシュ菌、13/65件(20.0%)からリステリアが検出された。豚肉では2/75件(2.7%)からサルモネラ、3/71件(4.2%)から黄色ブドウ球菌、1/75件(1.3%)から腸管出血性大腸菌O103、2/75件(2.7%)からカンピロバクター、1/71件(1.4%)からウエルシュ菌、6/71件(8.5%)からリステリア、8/71件(11.3%)から病原エルシニアが検出された。その他の食肉では味付けや焼き肉用等、手が加えられている鶏肉7/59件(11.9%)及び5/58件(8.6%)からそれぞれサルモネラ、カンピロバクターが検出された(表1)。
食品種別にみると、他の食肉と比較して鶏肉からの食中毒菌の検出率が高く、特にカンピロバクターの検出率は40.3 %にも及んだ。本菌は、家禽、牛、豚などの動物の腸管内に保菌されており、現在の食鳥処理場での処理工程では、鶏肉への汚染を防止することは困難な状況である2, 3)。一方、都内におけるカンピロバクター食中毒発生件数は依然として高く推移している4)。その原因の多くは、鶏刺しなどの加熱不十分な食肉の喫食、調理工程での二次汚染である。これらのことから、カンピロバクター食中毒防止には、食肉の十分な加熱、取り扱いなどの注意喚起が必要と考える。
2) 魚介類
魚介類6/78件(7.7%)から黄色ブドウ球菌、5/80件(6.3%)から腸炎ビブリオ、9/39件(23.1%)からリステリア、1/33件(3.0%)からビブリオ・フルビアリス、4/33件(12.1%)からエロモナスが検出された(表2)。
1990年代、わが国において腸炎ビブリオ食中毒の発生件数は非常に多かったが、2000年代に入ると減少傾向となり、近年は激減している。しかし、2018年9月に都内回転寿司チェーン店で提供された食事を原因とする腸炎ビブリオ食中毒が発生した1)。本調査においても、魚介類の23.1%から腸炎ビブリオが検出されたことから、魚介類には依然として腸炎ビブリオ食中毒のリスクがあり、本菌の食中毒防止には、菌の増殖を防ぐための食品の衛生管理が重要であると考える。
3) 畜水産加工品
食肉製品2/91件(2.2%)、魚介類加工品1/1件(100%)からセレウス菌、1/27件(3.7%)からリステリアが検出された。冷凍食品1/47件(2.1%)から黄色ブドウ球菌、3/33件(9.1%)からセレウス菌が検出された(表3)。
食品のリステリア汚染は原材料に由来する場合もあるが、リステリアが環境適応能の高いバイオフィルムを形成することもあり、多くは加工施設からの二次汚染とされている5)。本調査において、畜水産加工品からのリステリアの検出率は低かったが、食肉、魚介類から本菌が検出されており(表1、表2)、原材料を介して食品加工施設へ菌が持ち込まれるリスクは高い。したがって、食品加工施設においてゾーニング及び定期清掃は重要な食品汚染防止対策となりうる。
4) 卵、はちみつ及び乳製品
はちみつ13/16件(81.3%)、牛乳(低温殺菌牛乳)4/7件(57.1%)、チーズ1/32件(3.1%)、その他の乳・乳製品2/23件(8.7%)からセレウス菌が検出された(表4)。セレウス菌が検出されたチーズはナチュラルチーズ、その他の乳・乳製品は生乳であった。セレウス菌の陽性率が高かったのは、未加熱または加熱温度が低い食品であったため、芽胞菌であるセレウス菌が残存したと考える。一方、本調査おいてボツリヌス菌は検出されなかったが、2017年3月に都内ではちみつの摂取が原因と推定される乳児ボツリヌス症による死亡事例が発生した1)。乳児ボツリヌス症は1歳未満の乳児に特有の疾病で、経口的に摂取されたボツリヌス菌の芽胞が乳児の腸管内で発芽・増殖し、その際に産生される毒素により発症する。本事例の発生を受け、改めて行政やはちみつ製造メーカーなどから1歳未満の乳児に対し、はちみつ関連製品を与えないようにとの注意喚起が出された。
4.まとめ
本調査において様々な食中毒菌が検出されたが、食中毒防止対策として、徹底した温度管理、十分な加熱処理、手指や器具の殺菌、洗浄等が重要である。
都では、食品衛生法及び関係法令に基づき「東京都食品衛生監視指導計画」を策定し、食品安全に係る監視指導、普及啓発、調査研究を実施している6)。本調査も指導計画に準じて実施したが、以上の結果から、今後も食中毒防止に向けて継続的に畜水産食品の検査を実施していく必要がある。
参考文献
1) 食中毒統計資料 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html
2) 横山敬子,高橋正樹:8 Campylobacter jejuni/ coli, 仲西寿男,丸山務監修,食品由来感染症と食品微生物,347-364,中央法規(2009)
3) 三澤尚明:食鳥処理場におけるカンピロバクター制御法の現状と課題,日獣会誌,65,617 -623(2012)
4) 食中毒の発生状況 東京都
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/tyuudoku/index.html
5) 仲真晶子:11 Listeria monocytogenes, 仲西寿男,丸山務監修,食品由来感染症と食品微生物, 401-421, 中央法規(2009)
6) 平成29年度 東京都食品衛生監視指導計画
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/03/30/13.html
(食品微生物研究科 福井理恵)