1. はじめに
日本の結核罹患率(人口10万対)は近隣アジア諸国に比べ低い水準にあり(図1)、米国等他の先進国の水準に年々近づいている。2017年の日本の結核罹患率は前年と比べ0.6ポイント減少して13.3であった。東京都の結核罹患率は16.1であり、都道府県別でみると、大阪府(21.3)、長崎県(16.8)に次いだ3番目と高い順に位置している1) 。
結核菌に感染したが、発病していない状態である潜在性結核感染(LTBI)のうち約20~30%が一生涯のいずれかの時点で発病し、そのうち10人に1~2人程度が結核の治療を必要とする活動性結核を発症し感染源となる。そのため、この潜在性結核感染者を早期に見出し、発病を防ぐための治療を行う必要がある。また、結核患者が発生した場合には、その家族や職場関係者等の中から、できるだけ早期に二次感染と考えられる結核感染者を発見し、蔓延防止策を講じるため、接触者健康診断を実施することが重要である。
2017年に日本で新たに登録された結核患者数は16,789人、LTBI数は7,255人であった。新登録結核患者数は年々減少傾向にあるが、LTBIはほぼ横ばいである。また、新登録結核患者数は80歳以上の年齢層が最も多い割合であるのに対し、LTBI新登録者数は、20歳から50歳代の割合が多い傾向にある(図2)。
そのため、東京都結核予防計画に基づいた東京都結核予防推進プランは2016年に改正された国の予防指針の内容をふまえ2018年8月にプラン2018として改定され、外国出生結核患者対策、高齢者結核対策、潜在性結核感染症対策の3点について重点課題としている2)。
2.インターフェロンγ遊離試験(IGRA)
現在、結核の感染症診断にはツベルクリン反応に代わり、BCG接種や大多数の非結核性抗酸菌感染の影響を受けないインターフェロンγ遊離試験(IGRA)が汎用されている。結核菌に感染歴を有する人のT細胞は、結核菌特異的抗原の感作によりインターフェロンγ(IFN-γ)を産生する。IGRAは、被験者から採取した血液に結核菌特異抗原を加えて培養し、血液中に遊離したIFN-γを測定する方法の総称である。IGRAは、結核感染の有無を判定する検査法であるが、「過去の感染」か「新規の感染」、あるいは「活動性結核」か「潜在性結核」の区別は出来ない。わが国で使用されているのは、クォンティフェロン(QFT)とT-SPOTの2種類である。当センターではQFTを採用し、保健所からの依頼検査を実施している。
3.QFT第四世代:QFT-Plusの特徴
QFTは、特異抗原としてESAT-6とCFP-10を用いたQFT第二世代(QFT 2G)が日本では2005年に承認され、特異抗原にTB7.7を追加した採血管方式のQFT第三世代(QFT 3G)が2009年承認された。
2018年2月には、日本においてQFT第四世代であるQuantiFERON TB ゴールドプラス(QFT-Plus)が承認された。それに伴い当センターでは、2019年4月1日受付分の検体からQFT-Plusでの検査を行っている。QFT 3GとQFT-Plus の大きな変更点は、用いられる結核菌特異的抗原の種類と判定基準が挙げられる。
QFT 3G の結核菌特異的抗原は、三種類のペプチド(ESAT-6,CFP-10,およびTB 7.7)であり、3抗原を含む採血管は1本であった。QFT-Plusの抗原含む採血管は2本(TB1、TB2)となる。TB1の結核菌特異的抗原は二種類(ESAT-6,CFP-10)、TB2の結核菌特異的抗原は三種類(ESAT-6,CFP-10:長鎖ペプチド、CFP-10:短鎖ペプチド)となる3)。この抗原の違いにより、TB1はT細胞のうちCD 4+T細胞(CD4)を特異的に刺激するが、一方、TB2はCD 4+T細胞と同時にCD 8+T細胞(CD8)も刺激するため、それぞれに対するIFN-γ産生を見ることができるようになっている。
QFT 3GがCD4の応答を主に利用しているのに対し、QFT-PlusはCD4のみならずCD8の免疫応答も利用しているため、CD4が低下する疾患においてCD8免疫応答シグナルも利用して結核感染の検出感度を高めることが可能とされている4)。さらに、CD8免疫応答シグナルはHIVと重感染した活動性結核5,6)および小児結核に認められるという報告もある7)。
また、判定基準も変更となった。QFT 3Gにあった「判定保留」が廃止され、QFT-Plusの結果判定は「陽性」「陰性」「判定不可」のみとなった。
QFT-Plusの判定基準ではTB1値TB2値のどちらかが0.35 IU/ml以上かつNil値の25%以上の値であれば陽性と判定する(表1)。QFT 3Gの「判定保留」は、基本的に「陰性」の領域であり、集団感染事例などの感染リスクが高い場合の偽陰性(感染の見落とし)を減らすうえで有用と考えられ設定された8,9)。QFT-Plusでは、カットオフ値0.35 IU/mlを用いて陽性と陰性を判定するため、QFT 3Gに比べ結果の解釈が簡単となった。しかし、従来通り被検者集団の背景を考慮し、総合的に判定することが必要であろう。
QFT-Plus はTB1値とTB2値の差を確認でき、TB2値は活動性結核の指標となりうると期待されていることから、今後の検査結果の蓄積と解析が必要となるであろう。
<参考文献>
1) 平成29年「結核登録者情報調査年報」(結核の統計2018)、厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000347468.pdf
2) 東京都結核予防推進プラン 2018:東京都福祉保健局,2018年3月
3) 現場で役に立つIGRA使用の手引き2、公益財団法人結核予防会
4) 福島喜代康 他:結核,93,517-523,2018.
5) Chicchio,T. et al. :J. Infect. doi,10.1016/j. jinf.2014.06.009.Epub. , 2014.
6) Ongaya,A. et al.:Tuberculosis 93, S60, 2013.
7) Lanicioni,C. et al. :Am. J. Respir. Crit. CareMed.185, 206, 2012.
8) 大石貴幸:臨床と微生物,45, 445-450, 2018.
9) 長尾啓一 他:結核,86, 839-844, 2011
(病原細菌研究科 安中 めぐみ)
図1.諸外国と日本の結核罹患率
図2.年次別・年齢階層別 新登録数年次推移
表1.QFT-Plus 結果の解釈※
※QIAGEN社HPより引用