カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症は, グラム陰性菌による感染症の治療において最も重要な抗菌薬であるメロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬および広域β-ラクタム剤に対して耐性を示す腸内細菌科細菌による感染症の総称である。東京都では、平成27年10月から積極的疫学調査の一環としてCREの菌株確保事業を開始した。本事業では、Enterobacter属(E.cloacae等)、 Klebsiella aerogenes(2018年に Enterobacter aerogenesから菌名変更)ついては基幹定点医療機関(25機関)のみ、その他の菌種はすべての医療機関に対して菌株の確保を依頼している。
平成29年4月から平成31年3月までの2年間に確保されたCREは 187株であった。菌種はKlebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)を含む
Klebsiella属が最も多く、次いでEnterobacter属、Escherichia coli(大腸菌)が多くを占めていた。
これら確保したCRE株については、国立感染症研究所の病原体検出マニュアル1)に基づいてβラクタマーゼ遺伝子の検出(PCR法)を行い、医療機関にその結果を報告している。平成31年3月までに確保したCRE株から検出されたβラクタマーゼ遺伝子の内訳を表2に、菌種ごとの詳細な内訳を表3に示した。国外と比較して国内での報告例が少ないNDM型、KPC型、OXA-48型は海外型カルバペネマーゼと呼ばれているが2)、平成27年10月から平成29年3月までに確保した菌株3)と比べると、NDM型、KPC型の検出数が増えている。
NDM型遺伝子が陽性になった12株の菌種の内訳は、K.pneumoniaeが5株、E.coliが5株、その他の菌種が2株であり、KPC型遺伝子が陽性になった2株はいずれもK.pneumoniaeであった(表4)。NDM型のうち9例とKPC型の2例は、海外渡航歴のない患者から分離されている。国内全体として、平成29年以降に報告された55株の海外型カルバペネマーゼ遺伝子陽性CREのうち41株が海外渡航歴無し・不明の患者由来であった2)。都内における海外型カルバペネマーゼ産生菌の国内感染(疑い)率が高い状況は、国内全体と同様の傾向を示していると考えられる。
腸内細菌科細菌に属する菌株の間では、各種のβラクタマーゼ遺伝子がプラスミドを介して伝達されると考えられている。このような遺伝子の伝達過程において、海外型カルバペネマーゼも広く国内で伝播する可能性がある。このような背景から、海外型カルバペネマーゼをはじめとするβラクタマーゼ遺伝子の保有状況に関して注視し、薬剤耐性(AMR)対策を推進していく必要がある。
<参考文献>
1) 国立感染症研究所:病原体検出マニュアルhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/labo-manual.html
2) 国立感染症研究所薬剤耐性研究センター 他:IASR,40,158-159,2019.
3) 久保田寛顕:東京都微生物検査情報,38,4,2017.
(病原細菌研究科 有吉 司)
表1. 積極的疫学調査で確保したCRE株(平成29年4月~平成31年3月)
表2. CREから検出されたβラクタマーゼ遺伝子(全菌種)
表3. CREから検出されたβラクタマーゼ遺伝子(菌種ごと)
表3. CREから検出されたβラクタマーゼ遺伝子(菌種ごと) ~続き~
表4. カルバペネマーゼ遺伝子が検出されたCRE(IMP型を除く)